●酒あれこれ U
本当に実の有るものとは、
能書きだけでなく、
やはり、値は手頃で、
しかも、長年、飽きずに、
飲み続けられるものでなくてはならない。
それでこそ、
本物と言うに相応しいだろう。
食品でも芸術でも学問でも、
何でも同じ事が言える。
そして、
人も。
「馬は乗ってみよ、
人は添うてみよ」
と、いうではないか。
最後の決め手は、何事も
如何に長年飽きないか
と、いうことに尽きる。
何時ぞや、
薬師寺の橋本凝胤長老が
ある著名な仏教学者を評して
「あれは、流行(はやり)っ子だから」
と漏らされたのを、傍で
それとなく聞いていた。
その当時20歳前の私には
その意が理解出来なかった。
しかし、50も半ばを過ぎると、
芭蕉の不易流行はよしとしても、
流行の人であれ、事であれ、物であれ、
時と共に流されて、消え往くことの忍びなさと
つまらなさを感じるようになって来た。
読み物は、やはり古典に落ち着き、
人も、むしろ無名でも職人気質の仕事の質にほれる。
人のうわさに右往左往したり、
権の見え隠れに右顧左眄したくない
齢(よわい)になったのであろうか。
一時は、地の底で這いずり回りながら働く
八百屋や魚屋、百姓の自らの生業(なりわい)に前途が見えなかったが、
流行り廃れのない万古の職に、
観る眼が座って来たように思う。
虚業の栄華は枯華でしかないが、
実業の質朴は次代を継ぐ種子なのだ。
酒の話に戻すと、
そう言う私は、実は下戸で
とんと酒には不案内なのだ。
それに更に輪を掛けて、
家内に言わせると、
味覚音痴らしい。
大の仲の良い友に、
文学通の三輪社長がいる。
彼は、無類の酒好きで、
体躯に似合わず滅法強い。
全国の名酒古蔵に精通して余りある。
そして、果実酒を造らせたら
右に出る者がないだろう。
私も同じく盃を傾けるに、五更を過ぎるに
尚も眼光炯々(けいけい)たれば、
彼との水魚の交わりの深みも、
底知れぬこと、如何許りであったか。
これは実に、人生一大事を失うにも等しい。
故に、私は尚も通(つう)ぶることも出来ず、
美味い、不味いは
正直に言うしかない。
多分に私の美味いものは、
万人も美味いに違いない。
そんな中、年末発見した物があった。
勧められるワインが無い中、
オーガニックで、しかも酸化防止剤も無添加。
更に、あのシュタイナー農法の「デメーター」
認証付きの白が、オーストラリアにあった。
メルボルンの北西470km。
大河マレー流域の石灰質の平原で自然栽培。
それは、貴腐ワインのような完熟の甘さを湛え、
しかも、適度な酸味がそれを際立たせている。
事実、飲んだ皆、美味しいと賛美する。
これは、当たりの白。
「Auslese Lexia アウスレーゼ レシア」
(自然農園で手伝う子供たち)
そして、同じ農園での赤。
ルビーカベルネソービニヨン種の「ロビンベール」。
これは、ワイン通には怒られるかもしれないが、
この赤をグラスに少々垂らして、白をたっぷり注いで
即席ロゼにして飲むべし。
別な赤でも一向に構わない。
甘味と酸味は好みに応じて、その比率を変える。
私のような、下戸で味音痴には、
もってこいの自家製ワインで、最近家で嗜(たしな)んでいる。
今までほとんど飲み続けた験しがないのだ。
その私がはまっているのだから、
きっとアルコールに弱い方や女性でも、好まれるのではなかろうか。
こんな初級篇から、
奥深くも裾野の広きワインの世界を誘う
一本になれば幸いである。
ただし、余りの美味しさに
飲みすぎないように、
お気をつけ下さい。
コメント
社長のコメントを聞いているだけでも
思わず「おいしそう!」と思ってしまいます。
飲めないけれど・・・。でも昔ドイツ旅行をした時、ブドウジュースが半端でなくおいしくて、おいしくて、これが発酵してワインになるのかなと思ったことでした。思わずビンのまま日本に持ち帰ってしまいました。それからぶどうジュースを探し回りましたが、その時のようなのはいまだに見つかっていません。でもその時、おいしかったブドウジュースの奥に、ワインにするブドウを一生懸命心をこめて作っておられる方の心をちょっぴり垣間見たような気がしました、このワイン少しでも飲めたらいいなと思います。
Posted by: 千枝子 | 2007年03月03日 21:04