●旨し珍し味道中7、「イクラ いくら?」
「今年になって、生筋子入っていないけど、まだ・・・?」
店頭で、しばしば聞かれる問い。
「んんんん・・・・・・」
と、詰まってしまう。最後には、
「鮭が獲れないから、高くて・・・・」
と、言葉を濁すしかない。
果たして、どうなってるんだろう。
安いのは秋鮭、高いのは紅鮭。
まあ、これが今までの常識であったが、
そうも言えなくなって来た。
秋鮭の仕入れ値も売値も、例年の1,5〜2倍はしているかもしれない。
とにかく、不漁なのだ。
釧路のカネセフーズの魚谷社長の処でも「山漬け」を諦めた位だから、
話は、極めて深刻なのだ。
筋子で言えば、67%まで落ち込んで、
セリ値が例年に比し、1,000円も高いとなれば、庶民の味でなくなる。
荷受では今年の鮭の総量10万t。
昨年は14,5万t、一昨年は16万tと下り坂を転がるように急落下だ。
1/3も減収ともなれば、漁業関係者にとって、これは死活問題でもある。
これは、復活するのか、という願いも届かないかもしれない。
(幻の鮭「鮭児・ケージ)
その背景は深刻で、例の温暖化が一番影響しているらしい。
水温が高いということは、帰趨本能を狂わせるということだ。
水温15℃以下でないと、母川には遡上出来ない。
今年平均17℃であったため、カムチャッカから南下して、稚内、オホーツクをさまよい、
さらに日高沖、最後は三陸沖に回遊しても川に上がれず、
とうとう、沖で海ぶな(ホッチャレ)になってしまっているという。
鮭にとっての体感温度が、人間の1℃が5℃くらいで、
2℃も違えば火傷で、とても川に上がれない。
丁度回帰する4年成魚が、全然獲れない。
だから、筋子も獲れないということになるのだが、
2,3年魚でも餌を求めて下って来ているという。
それと、今年の8,9月に台風などによるシケがなかった事も原因らしい。
海面と海底がかき混ぜられないと、水温に大差が開く。
そして、雨は海を冷やす。ところが降雨量が少なく、海温が上がった。
当然、鮭は沿岸に近付けず、涼を求めて底を泳ぐ。
水温1度上がると、200m下に潜るという。
すると上に掛けた定置網にひっかからないようになる。
ちなみに、鮭は水温帯で動く回遊魚なのだ。
温暖化は身近な海域にもこんなにも激変させている事を知り、
地球は微妙なバランスの上でなっていることが理解される。
(秋鮭の木箱)
しかし、問題はまだある。
鮭は自然の回遊魚だと、我々は認識している。
今、農産物の有機JAS認定と同じく、
海産物にもEco認証を与えるという世界的な動きが既にある。
日本にも、既にその商品の一部が輸入されている。
(海外で流通しているエコフイッシュラベル)
当然、北海道産の鮭は、そのEcoマークを付けて、
付加価値を付けるべきと考えるが、そうもいかないらしい。
それは、人工授精が大半を占めるからだ。
規定として、人工20%、自然80%の比率でなければ認定が下りない。
ということは、単純に人工孵化場を80%閉鎖しなければならない。
そうすると回帰率は極端に減るだろう。
実際、孵化した後の稚魚の放流が、川下で行われている所に、
一因があるのではないか、と指摘する人も居る。
つまり、自分の母川が分らず、沖で彷徨して、遂には川上に辿り着かない。
先ほどの4年魚の成魚が少なかったのは、
一つには4年前、稚魚の放流で死滅したものが多かったという報告もある。
おそらく来年の5年魚は半分以下であろうと予測される。
台所事情に直結する、この鮭鱒事情、聞き捨てならないものがあるのだ。
確かに地球異変は足元に迫っているという実感が感じられる、今日この頃である。
しかし、そんな中でも、かいくぐって良くて安いものを仕入れる努力をしますね。
(正月にはなくてはならない「イクラ」)
ちなみに、入荷する各地の秋鮭。
「白糠の恋問鮭」「様似の銀毛鮭」「羅臼の極銀鮭」「日高の銀聖鮭」
「湧別のオホーツク鮭」「根室・歯舞の船上活〆鮭」・・・まだまだありますね。