●仏師 冬水
先日、名寄の能面師・松本冬水氏より、
仏像を彫ったとの手紙に写真が添えられてあった。
京都・広隆寺の弥勒佛の写しである。
見事と言う他はない。
一度も仏師に師事したことがないその技量は、
これまで専心自力で能面を彫りこんで来た賜物なのだろう。
専門家がどう評価するか否かの次元は、とうに過ぎている。
無雑な心境、研ぎ澄まされた三昧心は、
見る者をして惹きつける。
そして、何よりの功徳が、
冬水さん自身の健康である。
能面を彫っていた3年前まで、病苦が彼を襲っていた。
しかし、釈迦如来の仏像を彫り始めた頃から、
メキメキと元気を取り戻して来たのだ。
今では、すっかり声にも張りが出て来て、一同みな安心している。
能楽は幽冥のあの世とこの世の怨霊・亡霊の物語が多いから、
面そのものになって彫ると、その霊魂に覆われ、心身苛むのだろう。
仏像では、清浄光、歓喜光に包まれて、癒される。
きっと、これを拝する人々に功徳を施す佛菩薩が出現するに違いない。
しかし、これからが冬水さんの正念場でもある。
これまでの伝統的な造形と形式から脱し、
彼自身の何物にも依らない
独自な境涯がどのような像を結ぶのか。
その行方が楽しみである。
この世知辛く、喧騒な濁世に背を向けて、
ひたすら我が信じる道を歩み続けている冬水さんは、
まさに古き世から甦った求道者である。
彼と同じ時代を生きている仲間として歓び、
彼の精進を学んで行きたい。
(ちなみにこの弥勒菩薩、高さ40cmで、60万円。3ヶ月費やした。
ご注文に応じて彫られるという。
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松本冬水 п@01654-2-1047)