●和魂/にぎみたま
三重の大森さんから「和魂/にぎみたま」へのメッセージが届いています。
全文をご紹介しますね。
「和魂/にぎみたま」
大森 俊紀
昨年末のことですが、札幌の知人よりお歳暮を戴きました。
「まほろば」さん自慢のお酒、「和魂」です。
「まほろば」さんと言うのは札幌にある自然食のお店で、
その妥協を許さない品質へのこだわりは他に類を見ないと言ってもよい程です。
和魂を初めて口にしたときのことは今でも覚えています。
すぐに思いましたことは、
これは私が日本酒だと思っていた物とは別次元のお酒だということでした。
グラスに注ぎました和魂は透明な琥珀を思わせる色合いを漂わせています。
果実を思わせる鮮烈な芳りは、一瞬、これが日本酒であることを忘れさせます。
中心はピュアでクリア。
少し間をおいた後で日本酒としての特徴が口の中に広がるという感じです。
その濁りのない気品は、さながら対比の世界を超越しているかのようです。
とてもきめ細かくはあるのですが強い波動を持っていて、
飲む人の精神を純化していきます。
汚れ無き心の中心を思い出させてくれるようで、
魂の格を引き上げるのではないかとすら思いました。
本来の意味は不明ですが、
ふと「御神酒」という言葉が連想されました。
またこのお酒は生きているのではないかとも感じました。
「意志」ではなく意識を持っている、
或いは意識を感じさせるお酒だと思いました。
私がお酒に対してこのようなことを感じたことは今までありません。
なにか「まほろば」さんのお店に行ったときに感じるような、
透明で純粋な空気と共通するところがあるように思いました。
本当によい物は生活全体に影響をおよぼすことがあるように思います。
和魂との出会いから、このお酒に相応しい酒器や料理へと想いが広がっていきます。
私は時々東京の渋谷にあります「黒田陶苑」というお店を訪ねます。
このお店は現代作家の名品を中心としていますが、
北大路魯山人の作品にも造詣が深いお店です。
ご兄弟が経営されている銀座店の方は魯山人の鑑定の方でも有名です。
http://www.kurodatoen.co.jp/index2.html#
現代作家のぐい飲みと言いますと、総じて大柄な物が多いように思います。
ですが、魯山人の徳利や杯には小振りな物が多く、
良いお酒を少しずつ味わって飲んでいたのではとないかと思わせます。
或いはワインのように、お酒の質が変わってしまうのを嫌ってのことかも知れません。
単に酔いを求めてのことではなくて、お酒に美を見いだしていたのでしょう。
「和魂」には、こういった粋な楽しみ方がよく似合うように思います。
また、東京に「華硝」という江戸切子のお店があります。
ほとんどのカット製品は、その磨きの段階において「酸磨き」という手法を用いています。
硫酸やフッ化水素等の劇薬品を用いての仕上げです。
この「華硝」さんは、「手磨き」という手法を貫いている世界でも数少ないお店です。
そのこだわりから生み出される切子の美しさは格別で、
まさにガラス食器の頂点の一つと言っても過言ではありません。
このような切子の杯や器なども、
「和魂」の深い味わいを一層引き立ててくれそうです。
http://www.edokiriko.co.jp/
このようなお酒の楽しみ方は豊かさと共に一種の緊張感も伴います。
禅や芸道の作法とも通ずるものがあるのかもしれません。
「和魂」のようなお酒には、その品格に相応しい、
少し緊張感のある飲み方が似合うのではなかと思います。
「和魂」をおいしくいただくには少し注意が必要だと思います。
生きているお酒だからでしょうか、
開栓後はいっきに風味が落ちてしまうほどのデリケートさも持っているように思います。
徳利やグラスに入れてからの温度の影響にも注意を払うべきだと思います。
「和魂」は、対等な扱いや心配りを求められる、
一種の人格を感じさせるお酒なのではないでしょうか。