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2010年02月27日

●ヒステリーな目利き

「自然医学」の連載物を脱稿してホット一息した所に、
件(くだん)の株新生・三輪社長から文芸記事のFAX。
久しぶりに腹を抱えて笑ったほどの愉快な内容だった。

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日経で読まれた方も多いとは思うが、
瀬戸内寂聴さんの連載「奇縁まんだら」の『小林秀雄、卓をどんと叩く』だった。
彼の白洲正子さんも傾倒し切っていた小林は「批評の神様」とまで言われた。
その神様と講演旅行を共にする羽目になった寂聴さん、さぁたいへん。

気難しがり屋で、ヒステリーな小林は、
下関の河豚屋に行くも、一向に目当ての刺身が出ないのに
腹を立てて、卓を叩いてひっくり返しそうに怒鳴った。
「河豚を食いに来たんだ!早く河豚を出せ!こんな料理はいらない!」と。
周りも主人も震え上がったとか。

さらに、博多のバーでは「ヘネシー」を注文するも、店の者は気を利かせて、
天下の評論家に相応しく超高級ブランデーを運んだ。
すると、すかさず小林は、
「ヘネシーといったら、ヘネシーを持って来い!ヘネシーもないのかこの店は!」
と、烈火の如く怒鳴り散らした。

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その旅の終わり頃にはヒステリーにも幾分慣れ、寂聴さんこう聞いたそうだ。
「先生、あまりお書きにならないようですけど、何で食べていらっしゃるのですか?」
「ああ、骨董の鑑定だよ」
「へぇ、先生はそんなに目利きなんですか」

「おれがいいと言えば、その品は、よくなるんだ」
「うわあ!凄いですね。先生の鑑定料って高いんですか」
「まあね、ほどほどに」

この話を聞いて、思わずニヤリと笑ってしまった。
「寂聴語録」には『親友(中原中也)の女を奪う男の鑑定料』とあった。
本当にそうだ、目利きが良いと言ったら良いに違いない。
そんなに威張っても画になる人が当世居なくなったのかもしれない。

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96歳になる音楽評論家吉田秀和氏は、
「小林秀雄の音楽評論にはカデンツアがない」と言ったそうだ。
若き日、彼の「モオツアルト」に衝撃を受けた氏も、年を重ねて、
カデンツアの持つ即興性や、息継ぎの句読点がない、
いわば、間合いのないびっしりと引き詰められた論理には疲れるのだろう。

解かるような気がする。
語り尽くしても、詩情を覆い尽くすことは出来ない。
しかし、最近発見された「本居宣長」の講演テープで、こうも言っている。
「今日では言葉が軽んじられ、
事実を学んで知ろうとばかりしている」。

実学を本命とする生き方と相半ばする
学問本来のあり方の鬩(せめ)ぎ合いに心揺れる思いがした。
真の言葉の重さに、襟を正すべき叱声が聴こえたからだ。


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