●「henna/ヘナ」と合田さん
仕入れから帰った合田さんが上気した顔で、
本店の事務所に入って来た。
私は、今朝仕入れたばかりの魚や青果の値付けの最中。
一刻も早くとばかり、必死に値段をPCに打ち込んでいる。
その合田さん、笑みがはちきれそうで、嬉しそうにソワソワしている。
おそらく私との25年ほどの付き合いで、
これほど張り切った顔を見たことがない。
それは、何でも写真撮りのせいであるらしい。
実は、前日新しいヘナの講習会で、
モデルになった髪の具合を映す為であった。
昨日は、1時間ほどで白髪がグリーン色に変色し、印象も一変した。
それが、半日で、今度は茶色に変わり、経時変化で思いの色に落ち着く。
その見事な変わり映えに、いささか心が躍ったのである。
70歳半ばになる合田さんを浮き立たすものは何か。
入社当初から、合田さんからある夢を聞かされていた。
それは、モンゴルに行く夢であった。
あの大草原で、一人寝そべって碧空を仰いで観たいと言っていた。
それは、どうしてだろう。
それは、外大モンゴル語学科出の作家・司馬遼太郎さんの
大のファンでもある彼は、
あの見事なまでの白髪に憧れ続けていた。
最初胡麻塩頭だったものが、この20数年かけて、
憧れの司馬頭に一歩一歩近付いて来たのだ。
ところが!合田さんは一朝の元に、その志を捨てた!!!
その志操を曲げたのだ、いとも易々と。
そして、その結果が、この黒髪であった。
あの思いは何だったのか。
あの志はどうしたのか。
いわば、合田さんは要らなくなったのだ。
どうして?
それは「若さ」が得られたからだった。
「老成」の象徴だった『真白き白髪』より、
「若さ」の象徴たる『漆黒の黒髪』を選択した合田さん。
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しかし、それは責められない。
それは、誰もが抱く本性なのだ。
秦の始皇帝が徐福に、まんまと騙されたのは「不老不死」というキーワード、
若さという永遠の憧れのせいである。
きれいに老いる事も美徳だが、誰からも歳不相応に若く見られたいものだ。
私もその一人であることは正直な話だ。
髪の毛一つで、こうも人の心栄えが変わるものか、と思う。
私も以前してみたが、何かウキウキする気持ちは隠せない。
講習会の当日、部屋がムンムンするほどの熱気で、
参加者がこんなにお越し戴いているとは想像していなかった。
ほとんどが女性で、その熱心さには、ホトホト感心してしまった。
「化粧と染髪、古代からの人の変身願望で、
これで日常性のケ(褻)の縛りを解き放し、
ハレ(晴れ)なる精神の若さを獲得出来るのだ」とか、
分かったような分からないような事を会の挨拶でしてみたものの、
女性が、男性より圧倒的に長寿な訳は、
案外、ここにも少なからず原因があるのかもしれない。
当日、東京から駆けつけて来て下さった
潟Oリーンノートの中澤由紀子社長とチーフの奥田さん。
15年もの長い間、ヘナの研究で現地の生産者や業者との密接な関係を築いて
今日のヘナブームの牽引車として活躍されて来られた。
ヘナには、色々な内容があり、それぞれの特徴もあり、
まほろばでも数社の物を扱って来た。
各々の特質に応じ、お好みで使われれば
良いのではないかと思っている。
来月は、御馴染みの「IPM」のヘナ講習もあり、
ご自分で比較されながら、
古代の智恵と現代の工夫で、一層美しく変身されますように。
そして、お客様共々、一歳でも若く見られて、一年でも長生きして
この人生を謳歌されますことを。