●『人間の建設』
(初版本『対話 人間の建設』岡潔、小林秀雄)
その人生を決定付ける一冊の本がある。
私にとって、それは『人間の建設』だった。
確か15、6歳の頃、手にしたものだ。
それから自分の人生が方向付けられた、
と言っても過言ではない。
今に至るまで、その歩みは変わらなかった。
若き日々の苦悩も、今日の営みも、
その根底を動かすものは、この二人の
人生の巨匠から出でたものだった。
決して、私は読書多き方ではない。
主に、中国古典を好んだが、
身に詰まされ、心を喚起させるものは、
この一書から、始まったと言ってもよい。
私の世代、影響された方々も、さぞ多かろうと思う。
しかし、私にとって、それは多くの友と
全く別な道に向かう孤独な選択でもあった。
だが、それがあってこそ今日があるとも言える。
私の小さな経験や気付きが人様の役に立つとは思えない。
しかし、新鮮な眼で、この『人間の建設』を読まれると、
きっと、今までにない古くして新たな道が開かれていることに
気付かれるに違いない。
これは歴史に遺る第一級の名著だと思う。
かつてのソクラテスとプラトンの会話に匹敵するものだろう。
分かり易い言葉の中の滋味深い意味合いは、
約半世紀経っても色褪せるどころか、
益々、いぶし銀の光沢が発せられる。
この度、新潮社から文庫本として発刊された。
特に、若い人にはこの珠玉の書を是非読んで頂きたい。
良識と知性の何たるかを、垣間見られるであろう。
きっと、一生の宝になるであろうことを信じる。
岡潔、小林秀雄/著
新潮文庫 ¥380