●牛の鈴音
「私と牛、どっちが大事なの!!!」
毎日、婆さんから小言を言われ続けるチェ爺さん。
「農薬を撒かないから、米の実入りが悪い!」
でも、だまって黙々と牛の草を刈り続ける。
撒けば、牛は草が食べられなくなる。
「機械を使えば、早いしキレイに稲が刈れるのに」
でも「収量が減る」と手刈りを続ける。
79歳の爺さんには寄り添うように老牛がトボトボと歩く。
今年40歳にもなる。
牛の天寿は15年、奇跡のようだ!!
どうしてだか分からないけど長生きしている。
でも、この牛のお陰で子供も育て上げられた。
「いい加減に、牛を売れ」
「ワシをとるか、牛をとるか」
周りから何と言われようが、婆さんからうるさく罵られようが、
一向に貸す耳を持たない。
今朝も牛の荷車で畑に行き、田を耕し、
よろよろの老いぼれ牛と
よぼよぼの老いぼれ爺さんの背には、
金色の西日が眩くきらめく。
ゆったりと時間は流れ、
確実に老いの皺は深くなる。
チェ爺さんの頭病みは止まらない、か細い足はなえて、
足先の骨は曲がって痛々しい。
医者は「働くのをやめなさい」と諭す。
でも、老牛のために、今日もカスカスの骨皮だらけの老体に鞭打って、
草を刈り、背に負い、フラフラとふらつきながら餌を与える。
精も根も尽き果てて、ついに牛をせり場に出すも、
誰からも相手にされず、またトボトボと帰路を辿る。
本当はチェ爺さんは嬉しかった。
しかし、ついに相棒も息果てる朝を迎える。
土葬された周りは、相も変らず美しい光が土を黄金に変える。
まるで、浄土のよう。
チェ爺さんも、もうすぐ後を追って天国で一緒に畑仕事をするのだろう。
あれだけ憎まれ口を叩いた婆さんが、
「国一番の牛だった」と洩らした。
老いぼれ牛も、天で「クスッ」と苦笑いしたに違いない。
口コミで広がったこの「牛の鈴音」。
韓国国内で約300万人を動員。
およそ15人に1人は観て、「牛の鈴症候群」になるほどの
社会現象を生んだという。
変化を求め過ぎた現代社会。
今一歩、立ち止まって、後ろを振り向くことがあっても良いんじゃないか。
物分りのいい人だらけになって、何か違うんじゃないか。
家に頑固爺さんや意固地婆さんの一人や二人いることが、
実は健全な国であるかもしれない。
僕らも、そろそろ走るのは止めて、歩きたい。
歳も歳なんだから・・・・・・・・・・・
(・・・・演技も演出もないのが良かった。・・・・)
(・・・・「無為」ということは「有情」という意味合いがあったのだ!!・・・・・)
(・・・・ともあれ、この若き監督の感性というより、魂に乾杯!!!・・・・・・)
「シアターキノ」
狸小路6丁目 南3条グランドビル2F 011-231-9655
http://theaterkino.net/
4月9日まで(延長になるかもしれません)