●心のオールドコーン
既に,夕方6時半。
ついこないだまでは陽光が西の山際から消えることはなかった。
街の明かりが、ポツリと夜のしじまに浮かび上がる。
車を、第6・新耕地のとうきび畑に向けて走らす。
すると、真っ黒い山陰に、煌々と照るライティング。
キビ畑がポッカリと映し出されて、なかなか見れる光景ではない。
農園のスタッフも、色々下準備に追われて、忙しい中、ご苦労様。
朝早くから、夕刻遅くまで、クタクタになるまで働きつめる。
見れば、専務はNHKスタッフと打ち合わせに余念がない。
その指示の綿密なること、微に到り細に亘ること、驚くばかりだ。
いよいよ、本番。
生中継のためか、一つのことをもミスは許されず、神経が張り詰める。
この日のリハーサル3回、4時から来てのセッティング。
これまで2度3度来ての打ち合わせ、電話での確認。
もう半年前からまほろばに打診があって、ここまで検討して、
つい先日、内部会議で正式決定。
それがたった放映4分間のために。
これが9名のスタッフを雇っての仕事。
隣りには、放送器材と電波を飛ばす基地としての大型バスが待ち構えている。
まさに驚くべき下準備と検討に次ぐ検討。
あのお笑いのような軽い話にも、けっして軽率に批判されない線引きを
ちゃんと頭に入れてトークをしているのだ。
天下のNHK、此処までしてのNHK、恐れ入った次第である。
一級の仕事とは、こうまでしなくてはならないのか。
あらゆる角度から、詳細にことを進め、
一分の隙も、一端の傷も残さぬよう配慮する。
世間に見られるとは、ここまでせねばならぬのか、と反省。
まっこと大変なことである。
我が事、我が店を振り返ったならば、これ如何に。
まだまだ厳しさが足りず、想いが至っていない。
しかし、人それぞれ、事それぞれ。
学ぶは半分、我が道も半分。
これでは、疲れて息も出来ない。
やっぱり、最後は自己流しかないだろう。
気楽に、気侭に、気長にと・・・・・
息を詰めれば続かない。
前を見れねば歩めない。
とにかく、背伸びせずに、この侭この侭。
NHKゆえに、会社名も、農園名も明かせない。
しかし、会社に帰ると、電話が止まず。
お客さまが、NHKに問い合わせて、かけて来たのだ。
既に、昨年からの予約で4000本以上は売約済み。
去年の3倍6000本を播種したが、果たして収穫なるやいなや。
決して旨いとはいえないこの「黒もちとうきび」が何でこんなに人気があるのか。
まことに不思議な気がする。
「もう、おばあちゃんが死にそうなので、食べさせたいから、どうしても下さい」
死にそうな人に歯が立つかなーと思いながら、
この似たような哀願で、どれほど注文が舞い込んできたことか。
そこには、昔懐かしい風景が甦る。
けっして甘くはないが、ほろ苦いカマドの臭いがする。
皆でケラケラと笑った温かい一家団欒の声が聞こえる。
「黒もちとうきび」に、そんな甘く切ない昔語りを、人は期待するのだ。
きっと先逝くおじいさん、おばあさんに此岸の若き頃を思い出させてくれる何かなのだ。
今はやりの甘くして甘いスイートコーンではないが、
心をも溶かすオールドコーンなのだ。
この在来種は、過去より未来に継ぐバトンであり、
悠久な時間を渡り継いだ歴史の証人だった。
コメント
専務とっても愛らしく写っていますね
Posted by: umeko | 2010年12月02日 14:23