●奥田シェフinまほろば #1 チッチを採用
2月の26日、とうとうその日が来た。
若いスタッフが企画した夢が実現したことを先ず讃えたい。
ピュアな想いは、心を動かす事実をみんなが見届けたのだ。
ゆかりちゃんは、ソフテを改革したくて、
矢も盾も堪らず直接、講演依頼の電話をかけた。
奥田さんが語っていたが、その時、トマムの現場にスタッフが居ず、
自分で電話を取ったと言う。
この時、チャンスの女神が微笑んだのだろう。
そして、電話越しから響くその声に何かを感じたらしい。
矢継ぎ早に話すその内容より、心動かされるものがあったに違いない。
普段は、この手の依頼は絶対受けないと言われた。
この一件でも、奥田さんがどういう人柄か偲ばれて、心温まる想いがした。
有名人ともなると、そこに一線を引くものだが、垣根なしの同じ目線が嬉しい。
ともあれ、あの「奇跡の皿」といわれたシェフとの「奇跡の縁」に感謝したい。
どれほど、まほろば関係者が歓喜し感謝したか計り知れない。
当朝、トマムからいらして、私の室でしばし打ち合わせをし、又お話しを伺った。
単に感性だけで動かれているのではなく、その内に整然とした理論体系があり、
そして、独創的な発想もあり、興味深いものだった。
例えば、ミネラルの機能性と体を形成する脂肪・蛋白質などの栄養素がある。
さらに、中国の陰陽五行の五味という感覚がある。
植物の苦味などあれば、通常対極の甘味などで
それを打ち消して中和させようとするが、
シェフは逆に、苦味に苦味を持ってくるという。
そうすると、そこに香りが立ち上がるらしい。
さらに、そこに新しい食感が生まれ、知識が加われば、
それはモルヒネとなって、料理は、恍惚として人をして酔わせるのである。
奥田マジックの一端が伺える、一レクチャーであった。
何と、そこに登場したのが、あの熟成「ti-tie/チッチ」である。
彼の「醗酵仮面」こと小泉名誉教授に「世界一臭くて、世界一旨い!」
と言わしめた2年熟成の『くさびら』でもある。
チッチは色々なタイプが出来て、フレッシュから濃厚なブルーチーズ様なものまで、
熟成期間や環境状況によって異なるから面白い。
奥田シェフが、その場で食べた「チッチ」は、冷蔵庫の隅に忘れ去られたものだった。
この臭みと味は、好き嫌いが分かれるところだが、
くさやが何百年も継承されているように、
「臭いは旨い」のカテゴリー、好事家の珍味でも成立するのではないかと考えている。
シェフは、何と、この取り合わせに焼きスルメを持ってくることを閃いたのだった。
試食して確かにイケる、互いの臭みがせめぎ合って、まったりした落ち着きを払っていた。
これは不思議だ。旨味が旨味を引き立てるとでも、言うのだろうか。
前回にも書いたが、味覚センサーが始動すると、UFOキャッチャーが相手を探し、
即座に捉えて妙合させる、それはえもいわれぬ新奇な組み合わせだ。
既成概念に囚われない、驚嘆の奥田ワールドがそこから拡がる。