●携帯電話の電磁波「発がんの可能性も」 WHOが分析
【ジュネーブ共同】携帯電話の電磁波とがん発症の関連性について、
世界保健機関(WHO)の専門組織、国際がん研究機関(本部フランス・リヨン)は31日、
「聴神経腫瘍や(脳腫瘍の一種である)神経膠腫の危険性が限定的ながら認められる」
との調査結果を発表した。
WHOの組織が携帯電話に関して発がん性を指摘したのは初めて。
国際がん研究機関は、危険性の数値化はしておらず、
「(最終的な結果を得るためには)今後、
携帯電話の長時間使用について調査を続ける必要がある」としている。
(携帯電話を耳に当てて話す男性=5月31日、米ロサンゼルス(ロイター=共同))
世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC)は31日、携帯電話の電磁波と発がん性の関連について、限定的ながら「可能性がある」との分析結果を発表した。耳にあてて通話を長時間続けると、脳などのがんの発症の危険性が上がる可能性があるといい、予防策としてマイク付きイヤホンの使用を挙げている。
フランス・リヨンで31日まで開かれた作業部会で、14カ国の専門家31人が議論し、携帯の電磁波について、五つある発がん性分類で上から3番目の「可能性がある」に位置づけた。IARC分類は、各国が規制措置をする際の科学的根拠となるため、今後、規制論議が始まる可能性がある。ただ、動物を対象にした研究では明確な関連性がないとした上で、今後、長時間携帯を使う人などを対象にした研究を重ね、さらに分析を進めるべきだとした。
電話回線を通じて31日記者会見した作業部会のジョナサン・サメット委員長(米南カリフォルニア大学)は、「(脳のがんの一種である)神経膠腫(こうしゅ=グリオーマ)や、耳の聴神経腫瘍(しゅよう)の危険を高めることを示す限定的な証拠がある」とした。
検証した過去の研究では、1日30分、10年以上の携帯使用で、グリオーマの危険性を40%高めたとの報告があるが、発がん性が明確に証明されたとまでは言えないという。
一方で、同じく電磁波を出す電子レンジやレーダーを職業上使う場合や、ラジオやテレビ、各種無線通信に日常生活で触れる場合も同様に検証したが、発がん性との関係はないとも結論づけた。
会見に同席したIARC幹部は、メールなどの文字を打つ形での携帯電話の使用は、発がん性との関連はないと説明している。ただ、音声通話の際は「長期的な人体への影響を考えるならば、イヤホンを使うなどの予防策がある」と述べた。(ジュネーブ=前川浩之)
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〈発がん性分類〉WHOの一機関である国際がん研究機関(IARC)が判断する、人間への発がん性の危険度。(1)発がん性がある=グループ1(2)おそらくある=グループ2A(3)可能性がある=グループ2B(4)あるかどうか分類できない=グループ3(5)おそらくない=グループ4、の五つの分類がある。(3)には、殺虫剤や人工着色料に含まれる化学物質など約240が挙げられている。コーヒーも膀胱(ぼうこう)がんとの関連で(3)に分類されている。
■「根拠はまだ限定的」
WHOの国際がん研究機関(IARC)が、携帯電話の電磁波を、「発がん性の可能性がある(グループ2B)」に分類した。ただ、「2B」は発がん可能性があるという分類の中では根拠が弱いレベルで、物質のほか、職業としても消防士やドライクリーニングの従業員などがこの分類に指定されている。
IARCは多数の論文を検討した上で、「根拠はまだ限定的。さらなる研究が必要」とも言及している。
電磁波とがんの関係は、携帯電話が広く使われ始めた1990年代から指摘され、世界中で様々な研究が行われているが、まだ確定的な結論は出ていない。
97年にできた総務省の委員会が実施した動物実験や、約430人を対象に行った調査では、携帯電話と脳腫瘍や聴覚神経のがんの発生との因果関係は証明できなかった。IARCの決定に対し、世界各国の科学者たちが作る団体は「時期尚早の決定」と批判するコメントを発表している。
それでもIARCがこのような決定をしたのは、少しでも健康に害を及ぼす可能性があるものは早めに注意喚起する、というWHOの「予防原則」からだ。
携帯電話は多くの人の日常生活に欠かせない。結論が出ていない段階で過度に恐れる必要はないが、一方でリスクはゼロでないことを理解し、使用することが必要だろう。(大岩ゆり)