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2011年08月03日

●備えあれば患い無し

『書経』説命に、殷の宰相傳説の馴染みのある言葉が載っている。
「これ事を事とする(するべきことをしておく)、
乃ち其れ備え有り、備えあれば患い無し」とある。
これに、似た言葉は枚挙に暇が無い。

例えば、「後悔先に立たず」や「転ばぬ先の杖」などは、誰もが知っている。
「念には念を入れよ」「用心に怪我なし」もあり、
「予防は治療に勝る」に至るや、誠に耳が痛い。
これら当たり前過ぎて、実はなかなか実践出来ていない。

それを、日常当然の如く、
コツコツと遣り通す、その達人こそイチローだと、
かのグルメ派の山本氏は説く。
物事を極めるのは、遠い彼方にあるのではなく、
最も身近なところに、転がっていると言う妙訓にもなっている。


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「球界の天才はいかにして活力を生み出しているか 〜イチロー論〜」                                山本益博(料理評論家)
         
              『一流たちの金言』 〜第3章 プロ論より〜
                http://www.chichi.co.jp/book/7_news/book934.html


私も年に一度はシアトル・マリナーズの
ホームグラウンドへ足を運んでいるが、
基本的に野球観戦ではなく、イチローを見に行っているのである。

その際、一塁側の観客席からはベンチでの
イチローの様子が窺えないため、
相手方の三塁側に座ることもある。

そこから双眼鏡でマリナーズベンチを覗いてみると、
味方の攻撃中にもかかわらず、
なぜかイチローはほとんどベンチにいないのである。

テレビで観戦していても、誰かがホームランを打って
チームメートがハイタッチしている輪の中で
イチローを探しても、まずいない。

もちろん打順が回ってくる時はスタンバイしているが、
それ以外はロッカールームで次の守備に備えて
アンダーウェアを着替えている。


とにかく彼は準備に準備を重ね、備えを怠らない人だ。
なぜ準備をするのかということについて、彼は昔


「言い訳を最小限にするためだ」
と言っていた。

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例えば前の晩にグローブの手入れを忘れたとする。
翌日の試合でたまたまミスをすれば、


「昨日グローブの手入れを忘れたから」
と道具のせいにしたり、言い訳したくなるものだが、
彼はそれを許さない。

そこまで徹底して準備をするイチローは当然
「ミス」がほとんどないのだが、
2004年の7月17日のクリーブランド・インディアンズ戦で
貴重な(?)凡ミスをしたのである!

ライトヘの凡飛球をグローブに当てながらも落球してしまったのだ。

この日のインタビューで、彼は
「ルーティンのフライボールを落とすということは、
 野球を始めて以来、一度もなかったと思います。
 野球の基本を見直す機会にしたいと思います」
と答えている。

これほどの選手が「基本を見直す」と言う自体がすごいが、
さらにすごいのは、その「見直し」が行われたであろう、
翌日の18日から打ちに打ちまくり、
8月17日までの28試合で
132打数67安打の記録を残したのである。


イチローはヒットで出塁し、
ホームインしてベンチに戻ってくると、
すぐにバットケースから自分のバットを取り出し、
いまのヒットはバットのどこに当たったのかを見ながら、
いったんバットボーイの手に渡ったバットを
自分の道具として取り戻すためにチェックしているのだ。

職人は毎日同じ仕事をしていても、
日々の仕事の見直しや点検を決して怠らないものだが、
ことバッティングに関して、毎打席、
見直し・再点検を行っているイチローには恐れ入る。

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