「“神の手”を持つ脳神経外科医の流儀」
12月 1st, 2011 at 8:33
佐野 公俊
(明徳会総合新川橋病院副院長・脳神経外科顧問、
藤田保健衛生大学名誉教授)
『致知』2010年6月号
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【記者:手術に臨まれる時は、どんなことを心掛けておられますか?】
まずは手術前(ぜん)の下準備ですね。
事に当たる前に、手術がどんなふうに進んで、
どのあたりで難しくなるかといったことを考える。
だから易しい症例でもちゃんと絵を描いて、
チェックポイントを頭の中に置いた上で臨んでいます。
昔はなんとなく頭の中で考えて、
という人が多かったけれども、
私が「絵を描かなければダメだ」と常々言ってますから、
いまではほとんどの人が描いてくれるようになりました。
それと、絵に描くことのもう一つの利点は
「いや、実はこんなふうに思っていたんだよ」と、
後で言い訳ができなくなることです。
合っていれば合っている、間違っていれば間違っている。
そうすると、自分の反省にもなるでしょう。
あぁ、これだけずれていた。ここはこうしたほうがいいんだな、
というのが分かるから、次回に修正することができる。
どんな症例でも絵を描いてから臨まなければ、
手術はなかなかうまくなりません。
それから術後に自分のビデオを「他人の目」で見ることも大切です。
ほとんどの外科医は、自分はもの凄く腕がいいと
思い込んでいるんですよ。
だけど自分のビデオを早送りせず、通常の速度で観ると、
何をもたもたやっているんだとほとんどの人が感じると思う。
だからまず、己を知らなければ。
「彼を知り己を知れば百戦殆からず」ですよ。
【記者:手術中の心得はいかがですか?】
それはもう、術前に描いたとおりにやることですね。
手術が始まれば、後は平常心です。
予想外のことが起こった時に、
どれだけ平静さを失わずに対処できるか。
それこそが医師の経験のなせる業なんですね。
ただ、その瞬間はやっぱり修羅場ですよ。
でもそこで慌てて、ガシャガシャッ、とやったら
大変なことになる。
だからぐっと気を落ち着けて、
いまやるべきことは何かをきちっと見極め、
それを実行に移す。
その辺がやっぱり、エキスパートと生半可との違いに
なってくるんじゃないでしょうか。