映画 「孔子の教え」
1月 5th, 2012 at 18:52今、空前の孔子ブームだという。
若者にとって、孔子って何者だ、といわれる時代。
あれほど本国中国で、批林批孔で荒れ繰れた文化大革命。
赤軍派、四人組・・・私の青年期は激動の大陸で、古典文物は悉く破壊し尽くされた。
当時、孔子に憧れ、古琴を習っていた私は、留学は叶わぬ夢であった。
共産主義と孔子儒教は相容れぬものである。
それでも、その当時、私は汪兆銘政府長官の胡蘭成先生や
碩学の安岡正篤先生の謦咳に接する事ができた。
それと故川合信水先生から孔子の真精神について学んだことが大きかった。
その後、大学・中庸や春秋などは愛読書となっていた。
もう40年も前の事で、今では書棚に眠っているが、
青年時の白紙の状態に、古典に触れ、大人(たいじん)に接した事は、自分の財産となった。
何年か前、彼の中国で「孔子」の映画が完成された、と聞いていたが、
一向に封切の気配がなかった。
それが、この正月、ふと見た映画欄にそれらしきものが、掲載されていた。
早速観に行ったが、これは活劇である。
古色蒼然とした埃を被った2500年前が、豁然として現代に甦る。
そこには生き生きとした孔子とその弟子達が描かれて、
スペクタクルな戦闘シーンも含めて、乏しい想像の世界でしか描けなかった
時代背景や人物、文物が鮮やかに甦る。
日本では到底成し得ない時代考証や資料が山のように揃っているのだろう。
端然とした孔子の他に、策士・軍事家としての顔は世間の辛酸を嘗めた実像なのだ。
還暦近くして生国、魯を追放され、諸国を歴訪する果てしなき旅。
それがどのようなものであったか、想像を絶していたが、映像を見て、
困難を極めていた事がリアリティをもって迫ってくる。
何より、時代は変わるとも、人間のサガは変わらないという歴史は何とも哀しくも虚しい。
何はともあれ、一見の価値あり。
孔子の教え云々はさておき、その置かれた時代と風景と文化と人を観ておくだけでも、
論語は生き生きした、現代の新書となりうることを知るだろう。