「打つ手は無限」
1月 11th, 2012 at 10:32
中西 勝則 (静岡銀行頭取)
『致知』2012年2月号
連載「私の座右銘」より
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二〇〇八年九月十五日、リーマンブラザーズが倒産。
折しもこの直後に米国から帰国した私は、
ことの重大さを察知し、矢継ぎ早に営業の現場に指示を出すとともに、
お取引先の資金繰りに不安が生じないよう、
都心部に潮が引くように資金が流れ込んでいくのに逆らって
資金集めに奔走しました。
この時、私の脳裏にバブル時代に頭取を務められた
酒井次吉郎氏のことがよぎりました。
異常な熱気を帯びた日本経済の先行きに疑問を感じた酒井頭取は、
地方銀行本来の役割を思い起こされ、
都心の大企業やノンバンクから貸出金を回収。
後のバブル崩壊の影響を最小限度に止める決断を下されました。
二年ほど前、お亡くなりになる三週間前に
お見舞いに訪れた際のことです。
優れない体調を押して、諭すように静岡銀行の歴史を
順を追ってお話しくださいました。
話が一時間に及ぶと、最後は心配する奥さんに
促されるように席を立ちましたが、
何かを伝えようと懇々と話してくださった姿が
懐かしく思い出されます。
先の東日本大震災においてもあらゆる手を講じてきましたが、
地域経済、特に観光産業が受けるダメージを軽減しようと、
行員が自発的に宿泊施設の利用に動いてくれたことは、
利他の心が具体的な行動となって表れた嬉しい出来事でした。
利他の心も消極的な姿勢では、
目の前の困難に立ち向かうことはできません。
積極性をもって臨めば打つ手は無限に存在するのです。
そのことを私に指し示してくれた詩を最後にご紹介します。
実業家である故・滝口長太郎氏が遺された詩で、
題は「打つ手は無限」 。
すばらしい名画よりも
とてもすてきな宝石よりも
もっともっと大切なものを
私は持っている
どんな時でも
どんな苦しい場合でも
愚痴は言わない
参ったと泣き言を言わない
何か方法はないだろうか
何か方法はあるはずだ
周囲を見回してみよう
いろんな角度から眺めてみよう
人の知恵も借りてみよう
必ず何とかなるものである
なぜなら打つ手は常に
無限であるからだ