「津波てんでんこ」
9月 22nd, 2011 at 11:19三陸地方に伝わる「津波てんでんこ」という言葉。
津波に襲われたら、親兄弟も捨てて「てんでんに」逃げろ、
それが命を守る方法だ、という意味だ。
一族の全滅を避けるためには正しい教えだが、
3月11日、この禁を破った英雄が東北にたくさんいる。
新日鉄釜石に勤務する森闘志也(としや)さん(34歳)。
これまで取材をほとんど拒否していたのは、
「目の前にいたのに助けられなかった人もいるから」だった。
あの日、職場で被災した森さんも波にさらわれたが、
川のフェンスに引っかかって九死に一生を得た。
一度会社に戻ろうと周囲を見ると、茶色い濁流に車、船、家が流されている。
振り返った瞬問、漂流している男性の姿が見えた。
近くにあったロープを掴んで、森さんは駆けだした。
その姿を見た同僚は「森は死んだ」と思った。
「濁流を泳いで渡り、男性を助けようとすると、
近くの車に女性が3人閉じこめられていた。
ドアを開けようとしても水圧で開かない。
丸太でフロントガラスを叩いてもへこむだけで割れない。
車はガレキに引っかかって止まっているだけで、
いつ流されるかわからない状態でした」
極限状態で、森さんは自分でも信じられないパワーを発揮した。
一拳でサイドのガラスを割り、中から女性を引っ張り出しました。
出したはいいけど岸まで距離がある。
丸太にロープを結び、僕は岸に戻ってロープを引っ張って
丸太ごと女性3人をたぐり寄せました。
女性たちは、大学に入学したての娘さんと友人、
母親の3人ということでした」。
森さんはこの女性たちも含め10人近くの命を救った。
(週間現代8月20,27日号)