「人生をひらく」
9月 23rd, 2011 at 9:43『致知』二〇〇九年七月号より
人生をひらくとは心をひらくことである。
心をひらかずに固く閉ざしている人に、人生はひらかない。
「ひらく」には、開拓する、耕す、という意味もある。
いかに上質な土壌もコンクリートのように固まっていては、
よき種を蒔いても実リを得ることはできない。
心をひらき、心を耕す・・・人生をひらく第一の鍵である。
社会教育家の田中真澄さんが講演でよくされる話がある。
人間の能力は、知識、技術、そして心構えの三辺で表される。
どんなに知識と技術があっても、心構えが悪ければ、能力は出てこない。
すべては底辺の心構えいかんにある。
さらに、よき心構えは積極性×明朗性で表される、という。
なるほど、と思う。消極性×陰気では何事も成し得ない。
『致知』三十余年、これまでにご登場いただいた幾多の先
達のことを思うと、田中さんの言葉がよく理解できる。確
かに人生をひらいた人には共通した心構えがあった。
その一は、「物事を前向きに捉える」。
物事を後ろ向きに捉えて人生をひらいた人はいない。
その二は、「素直」。
宮大工の小川三夫さんは高校卒業後、「法隆寺の鬼」「最後の宮大工」
といわれた西岡常一棟梁に弟子入り。
修業時代は棟梁の言葉にすべて「はい」と従った。
そしていまや社寺建築の第一人者である。その経験からいう。
「批判の目があっては学べません。
素直でなければ本当の技術が入っていかないですね」と。
心にわだかまりがある人は人生を歪める。
多くの先達がいっていることである。
その三は、「感謝の念を忘れない」。
人生の成功者に共通した資質がこれである。
成功者は呪いたくなるような境遇をも、
この境遇が自分を育ててくれると感謝している。
その四は、「愚痴をいわない」。
自分が出したものは自分に返ってくる。宇宙の法則である。
愚痴ばかりいっている人は、愚痴ばかりの人生になる。
心構えに関する田中真澄さんの卓見がある。
「心構えというのは、どんなに磨いても毎日ゼロになる能力である。
毎朝歯を磨くように、心構えも毎朝磨き直さなければならない」
人生をひらく第二の鍵である。
『論語』と並ぶ古典『大学』は全編これ、人生をひらく教えに満ちている。
中でも心に響く一文がある。
「必ず忠信以て之を得、騎泰以て之を失う」
真心を尽くしてすれば何事も成功するが、
反対におごり高ぶる態度ですれば必ず失敗する、ということである。
人生をひらく第三の鍵といえよう。
最後に、二宮尊徳の言葉。
「太陽の徳、広大なりといえども、芽を出さんとする念慮、
育たんとする気カなきものは仕方なし」
発憤カこそ人生をひらく源であることを忘れてはならない。