「現場力の高め方」
2月 2nd, 2012 at 9:15
遠藤 功 (早稲田大学ビジネススクール教授、
ローランド・ベルガー会長)
『致知』2012年2月号
特集「一途一心」より
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現場力を高めるにはどうすればいいのか――。
経営者にとって痛切な願いであり、永遠の課題であるに違いない。
しかし、それは社長が現場に出ていって
「おまえたち、もっとしっかりしろ」と檄を飛ばすことではない。
現場力というボトムアップの動きは、
実はトップダウンからしか生まれない。
重要なのは、経営者が現場に対してことあるごとに
「君たちが会社のエンジンなんだぞ」
と働きかけ、モチベーションを高めること。
現場の仕事をよく見て、
「この前のあの改善、よかったな」
と褒めること。
そして貢献した人物を正しく評価して登用していくことである。
経営者がこの努力を怠っては現場力の向上はあり得ない。
そもそも現場には慣性の法則が流れている。
現状のまま、決められたことを繰り返していることが
現場にとって一番楽である。
しかし、それでは現場は進化しない。
私がコンサルタントとして企業に入り、
まず着手することは、自分たちがいかに惰性に流され、
言われたことしかやっていないのかを気づかせ、
目を覚まさせることである。
それには「あなたたち、ダメですよ」と叱っても意味がない。
よいお手本、よい事例を実際に見せることが最も効果的である。
そこで私の顧問先で現場力の優れた他企業に連れていき、
見学をし、社員の話を聞いてもらう。
例えば、トヨタ自動車の生産現場に連れていき、
働いている人の話を聞かせると、
やはり皆「すごい」と驚く。
トヨタでは、年間約六十万件の改善提案が出て、
その九十%は実行されている。
当然品質もよくなり、コストダウンもできる。
見学に訪れた一人の社員が、トヨタの社員に
「どうしてこれだけの改善ができるのですか?」
と質問したことがある。
うちの会社はできないのに、なぜできるのか、
という素朴な疑問である。
それに対し、トヨタの社員は
「なぜできないのですか?」
と逆に質問していた。
これが現場力の決定的な違いだ。
トヨタでは自分たちの業務を改善するのが
当たり前だという企業風土が根づいている。
一方、現場力の弱い企業には改善するという風土がない。
この事例からも分かるように、
現場力は一朝一夕に高まるものではなく、
時間をかけてつくっていく組織能力である。
一年やそこらの取り組みで、簡単に手に入るものではなく、
五年、十年かけて根づかせていくもの。
倦まず弛まず現場力の重要性を説き続け、
その仕組みをつくり、根づかせるのが経営者の仕事といえる。