「仕事の鬼になれ」
3月 6th, 2012 at 10:41 『致知』2012年4月号
特集「順逆をこえる」より
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修業時代は先輩やオヤジさん(親方)から
非常にかわいがってもらえて、
別段辛いことってなかったですね。
僕は調理場でも何でも、
いつもピカピカにしておくのが好きなんです。
例えば鍋が煮こぼれしてガスコンロに汚れがつく。
時間が経つと落とすのが大変だから、
その日のうちにきれいにしてしまう。
そういうことを朝の三時、四時頃までかかっても必ずやりました。
それで、オヤジさんが来た時に
「お、きれいやなぁ」と言ってもらえる。
その一言が聞きたくて、もうピカピカにしましたよ。
だからかわいがってもらえたんですね。
それと、毎日市場から魚が入ってくるんですが、
小さい店ですから鯛などは一枚しか回ってこない。
でも僕は若い衆が大勢いる中で、
その一枚を自分でパッと取って捌きました。
そうしないと、他の子に取られてしまいますから。
ただ最初のうちはそういうことを、
嫌だなぁと思っていたんです。
というのも、「いいものは他人様に譲りなさい」と
親に言われて育ってきましたから。
半年ぐらい随分悩んだんですが、
でもそんなことばかりをやっていたら、
自分は負け犬になってしまう。
だから僕も、まだ青いなりに
「仕事は別だ」って思ったんですよ。
仕事だけは鬼にならなけりゃダメだ、と。
そう思って、パッと気持ちを切り替えたんです。
結果的にそういう姿勢が先輩や親方からも認められ、
それからはもう、パッパ、パッパと仕事をやるようになりました。
僕の若い頃には「軍人は要領を本分とすべし」と
よく言われたものです。
要領、要するに段取りでしょうな。
だから要領の悪い奴はダメなんですよ。
そうやって先輩に仕事を教えていただくようにすることが第一。
仕事場の人間関係の中でも一番大事なのは
人に好かれることで、もっと言えば
「使われやすい人間になれ」ということでしょうね。
あれをやれ、これをやれと上の人が言いやすい人間になれば、
様々な仕事を経験でき、使われながら
引き立ててもらうこともできるんです。
ただし、ダラダラと働いても仕事って覚えられないんですよ。
自分でテーマをつくらないと。
僕の場合は若い頃から、今年は何と何と何と何とを覚えようと、
必ずノートに書くようにしてきました。
そしてそれを何とか仕上げるよう努力していく。
今年は何をする、そして一年が過ぎる。
来年は何をする、俺ができないのは何だ? と。
それを探して、今年はこれとこれだけは覚えようということで、
一つずつ自分の課題をこなしてきました。
結局のところ、ものを覚えるというのは、
覚えるべきことを自分で探すことから
始まるんじゃないですか。
教わろうという気のある者は、
自ら盗むようにして学び、吸収していく。
人から言われて嫌々やっていたのでは、
いつまで経っても成長しませんね。