「人生は、踏み切る、割り切る、思い切る」
3月 7th, 2012 at 9:21 『致知』2012年4月号
連載「二十代をどう生きるか」より
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昨今の厳しい経済情勢下、希望する会社に就職できずに
悩んでいる若い人は多いだろう。
私が就職した四十年前といまでは随分事情も異なるが、
本来の希望とは異なる道を歩んできた私の体験は、
なにがしかの参考になるのではなかろうか。
私は商社で活躍していた父の勧めで商社マンを志し、
早稲田大学の商学部へ入学した。
在学中に広告にも興味を持ち、
就職先は大手商社か電通に絞り込んでいた。
就職活動の時期、親しい友人の一人が日本脳炎に罹って出遅れ、
彼には昭和四十年不況の煽りで不人気だった
証券会社くらいしか求人は残っていなかった。
彼から頼まれて野村證券の大学OBとの懇談会に
付き合いで参加したところ、後でOBの一人からご連絡をいただいた。
証券会社はこれからバラ色だ、と熱心に入社を勧められたのだ。
無下に断るわけにもいかず、ゼミ担当の教授に相談してから
返事をすることにした。
貿易論の教授からは初志を貫いたほうがよいと言われたが、
広告論の教授の見解は違っていた。
海外事情に詳しいその教授は、
アメリカでは証券ビジネスが急成長しており、
いずれ日本もそうなるだろうとの見解を示され、
どうせ選ぶなら自分を求めてくれる会社がよいと勧められた。
私はそのアドバイスに心を動かされ、
それまで考えもしなかった
野村證券への入社を決意したのだった。
ところが入社後の仕事は、
最初にイメージしていた顧客の資産管理の仕事とは
大きく異なっていた。
研修が終わるや分厚い高額所得者名簿と商工名鑑を渡され、
これを見て自分でお客様を探してこいと命じられ
ショックを受けた。
案の定、訪問先では
「証券会社なんて縁起が悪い」などと罵られ、
塩を撒かれたり、名刺を目の前で破られたりと
散々な目に遭った。
大変なところに入ってしまった……。
悩んで入社を勧めてくれた教授のもとへ相談に行った。
その時いただいた言葉はいまも心に残っている。
「人生は、踏み切る、割り切る、思い切るの三切るだ。
踏み切ったらまずは割り切って一所懸命やってみなさい。
それでダメなら思い切ればいいじゃないか。
君は踏み切ったばかりでもう思い切ろうとしているが、
それはまだ早い。
もうしばらく割り切って続けてみるべきだ」
私は原点に返って仕事に打ち込むことにした。