「一日一センチの改革」
3月 14th, 2012 at 9:23 『致知』2007年2月号
特集「一貫(いちつらぬく)」より
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ほとんどの方が気づいていないことと思いますが、
いま、私の住む東京都目黒区では、
区内にある自動販売機の脇に、
これまでなかった空き容器の回収ボックスが
次々と設置されています。
定年後にボランティアで区内の掃除を
するようになって驚いたのは、
空き容器のゴミのあまりの多さでした。
自販機のそばに回収ボックスがついていないことが
原因だと考えた私は、まず行政にその現状を訴えました。
しかし先方は
「条例条文にそのような項目はありません」と
繰り返すばかりで埒(らち)があかない。
次に町内会を訪ねてみましたが、ここはもっとやる気がない。
いざこういう問題に直面しても、
それをどこへ持っていったらいいかというのは、
意外に分からないものなのです。
結局私は、一人で動き始めました。
どうやったか。
自販機をよく見ると、設置されている住所、
メーカーの管理ナンバーと連絡先が記してあります。
そこに番号非通知で電話を入れてこう言うのです。
「ちょっと控えていただけますか。
こちら目黒区○○町○番地、管理ナンバー○○○○。
この自販機の回収ボックス設置をお願いいたします」
「どちら様でしょうか?」
「近くの住民です。よろしくお願いします」
十日もすれば回収ボックスが設置されています。
私はいま、外で回収ボックスのない自販機を
見かけるたびにこれをやっています。
あ、見つけた。
ピッピッピッと電話して、はいおしまい。
地元のボランティアの方々にお教えすると、
「おもしろいわね」と大勢の人が真似するようになり、
回収ボックスの設置がどんどん進むようになりました。
住民からこれだけ多くの声が届くようになると、
メーカーも新たに自販機を設置する際には
同時に回収ボックスの設置もせざるを得なくなります。
私は平成十四年に松下通信工業を定年退職し、
現在、緑豊かな美しい地球を子どもたちに残す
ゴミゼロ運動を展開しています。
その目標を実現するために、いちいち行政や法に訴えて
大騒ぎをする必要はありません。
まず自らが行動すること。
小さなことを淡々と実践し続けることによって、
ちっぽけな一人の人間が世の中を
大きく変えていくことができるのです。
私はこの呼吸を、現職時代にゴミ問題に
奮闘する中で会得しました。