まほろばblog

「窓際社員が成し遂げた奇跡のごみ改革」

3月 15th, 2012 at 9:26

      
  鈴木 武 (環境プランナー)

   『致知』2007年2月号
   特集「一貫(いちつらぬく)」より

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 排出物の分別置き場には、いくら分別の注意書きを貼っても
 真面目に読んでくれる人はほとんどいません。
 
 だからといって、指示通りに出してくれない社員を
 その場で呼び止めて注意しても効果はありません。
 
 自分の仕事と関係なく、やりたくもないゴミ出しを
 やらされて頭にきている人を説教すれば、
 火に油を注ぐようなものです。
 
 「あの生意気な環境の新人はなんだ」と反感を買い、
 その後の協力が望めなくなるばかりか、
 悪い噂が広がりクビにつながる可能性もあります。
 
 だから私は、こうしなさいと命令したことは一度もありません。
 指をさしたらその相手は敵になるのです。
 
 ではどうやって無関心な社員の意識を喚起し、
 気分よく協力してもらうか。
 すべては仕掛け、仕組み、工夫次第です。

 まず、前日の夕方に分別の棚を
 全部きれいに片付けて雑巾がけをしました。
 
 そして各コーナーに一つずつ、
 排出物を模範的なやり方で出しておくのです。
 
 翌朝各部署から排出物を持ってきた人がそれを見ると、
 
 
 「よそは結構きれいに置いてるな。
   いいかげんな出し方はできないぞ」
  
  
 となります。
 
 出しておいた排出物がモデルになって
 私の代わりにしゃべってくれるのです。
 
 出しておく位置を毎日少しずつ変えておけば
 不自然な感じはせず、私が演出していることがばれずに済みます。
 
 コピー用紙の束を持ってきた人が、
 縛り方が悪いために荷崩れしてしまった時には、

 「これは私がやりますから」
 
 と、まず自分がやって見せながらうまく協力を求めます。
 
 
 「実はこの荷造りでは、業者のおばちゃんが腰を痛めるし、
  引き取りの値段も減ってしまうんです。
  だからできれば次からは、おばちゃんのためにも
  こんなふうに縛っていただけるとありがたいんですが」。
  
  
 そう言えば、「分かった、考えとくよ」と、
 怒りに火が点かないし、
 「俺もやるよ」と手伝ってくれる人も出てきます。

 それから、私は七つ道具を常に携帯して
 いろんな場面で活用しました。
 
 ゴミの出し方について説明する時など、
 懐からおもむろに十手を出して指し示しながら話をする。
 まるで漫画です。
 
 しかめっ面をしていた相手の表情も
 「それ、何ですか」と和らぎ、
 笑いの中で分別に興味を持ってもらえるのです。

 日光江戸村で仕入れてきた大判金貨も、
 たいていの人は現物を見たことがありませんから
 興味を持ちました。
 
 ゴミを捨てに来た社員に触ってもらい、
 重さを実感してもらいながら、
 この百グラムの金塊(きんかい)は、
 携帯電話のICに使われている金メッキを
 5000~7000台分集めることでできるんですよ、
 とうんちくを披露します。
 
 金貨とともに分別の大切さが強く印象に残り、
 噂が広まって他の人も見に集まってきます。
 分別意識を高めてもらう絶好のPRになるのです。

 置き場が隣接していたガラスと電池は、
 なかなか指定通りに分別されず、
 よく二つが混じった状態で放り込まれていました。
 
 考えに考えた結果、私は一つの妙案を思いつきました。

 排出物を入れる缶の位置を、
 床から1メートル高く設置したのです。
 
 人間の心理とは面白いもので、
 入れ物が床にあればろくに分別もせずに放り投げるけれども、
 位置が少し高くなっただけで、
 そばまで寄ってきて丁寧に分けて入れる。
 
 これは劇的な効果がありました。

 何をやるにせよ、それにとことん燃えて取り組んでいると、
 次々とアイデアが閃くものです。
 
 朝の3時、5時、6時と閃いては目が覚め、
 メモしたアイデアを私は次々と実行していきました。
 
 その結果、それまでゼロに等しかった
 松下通信工業のリサイクル率は99%になり、
 それによって約2億円かかっていた
 廃棄物の処分費が節減できました。
 
 工場内はほとんどゴミのない状態となり、
 33か所ある排出物置き場はいつ開けても空っぽです。
 
 その運動は他の松下グループにも広がり、
 私が定年を迎えた平成14年には、
 松下グループ全体で98%のリサイクル率が実現しました。

 こうした活動は通常、トップダウンで進められるものです。
 松下通信工業のようにボトムアップで改革を成功した実例は
 これまで日本になく、常識をひっくり返す快挙でした。

 多くの企業で
 
 「うちの社長は頭が固くて駄目だ」

 「下がガタガタ言ったって、
  上がやる気ないんだからできるわけない」
  
 といった愚痴が聞かれます。
 
 しかし、力のない窓際族でも、知恵と努力と工夫を重ねれば、
 一万人の会社でも改革することはできるのです。
 
 

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