金子みすゞが関東大震災の翌年に詠んだ詩
カテゴリー:感動する話
矢崎節夫(金子みすゞ記念館館長)
(『致知』2011年7月号 特集「試練を越える」より)
金子みすゞは関東大震災の翌年に次のような詩を詠んでいます。
去年のきょう
―大震記念日に―
去年のきょうは、いまごろは、
私は積木をしてました。
積木の城はがらがらと、
みるまにくずれて散りました。
去年のきょうの、くれがたは、
芝生のうえに居りました。
黒い火事雲こわいけど、
お母さまお瞳がありました。
去年のきょうが、暮れてから、
せんのお家は焼けました。
あの日届いた洋服も、
積木の城も焼けました。
去年のきょうの、夜更けて、
火の色映る雲のまに、
白い月かげみたときも、
母さま抱いててくれました。
お衣はみんな、あたらしい、お家もとうに、建ったけど、
去年のきょうの、母さまよ、私はさびしくなりました。
* *
みすゞは関東大震災発生時は
下関にいましたから直接の影響は受けていません。
それでも震災から一年を経て、
昨年の今日の出来事を深く思うことで、
被災された人たちの悲しみの一端を
担おうと考えたのでしょう。
当時お母さんを亡くした子供のことを思って
一篇の詩を詠んだのです。
自分が幸せな環境にいても、
悲しんでいる人のことを自然と思うことができたみすゞ。
二十歳にして、既に自他一如の考えを
根底に持っていたということは、やはり驚嘆すべきことと思います。