「空の上でお客様から学んだこと」
4月 10th, 2012 at 11:16 『致知』2012年5月号
連載「第一線で活躍する女性」より
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入社2年目に転機が待ち受けていました。
八丈島から帰りのプロペラ機に搭乗していた時のことです。
機内が大きく揺れた際に、男性のお客様が手にしていた
ペンダントが座席の間に落ちて取れなくなってしまいました。
どうしても見つからないので、
到着地で整備士に座席を分解してもらって、
やっとペンダントが見つかったんです。
そうしたらそのお客様の目からぼろぼろと
涙が溢れ出てきたので、驚いてしまったことがありました。
実はその方の息子さんが1年前に就職祝いの旅で訪れた
八丈島で交通事故に遭って亡くなられていて、
そのペンダントは息子さんの大事な形見だったのです。
しかもそれだけではなくて、その息子さんは
自動車会社に就職が決まっていて、
ご両親は息子のつなぎ姿を楽しみにされていたそうです。
そして、ペンダントを探しに来たのは
若いつなぎ姿の整備士だった。
これはきっと息子が自分の姿を見せようと
したのだと思ったら気持ちが落ち着いて、
初めて息子の死を受け入れることができたと
涙ながらにおっしゃられたのです。
私はこの話をお聞きしていた時に、
大きな衝撃を受けました。
この方のために何もして差し上げることができなかったのだと。
もしそのペンダントを落とされなかったら、
その方はきっと悲しみに包まれたまま
降りていかれたことでしょう。
航空会社の仕事はお客様を目的地まで安全に、
かつ定刻どおりにお届けすることが一番の目的です。
でもそれだけではなく、何かで悩まれている方に、
たとえ、それが一見して分からなくても
そっと心を寄り添わせて、
少しでも気持ちが楽になっていただいたり、
元気になっていただくのも大事な仕事なんだな、
と気がついたんです。
大変難しいことではあります。
でも、何気ない会話からヒントが出てくることもありますから、
現役で飛んでいる時にはいつもお客様への
小まめなお声がけを心掛けていました。