「見えない境界線を消し去る言葉」
10月 11th, 2012 at 13:33矢崎 節夫 (金子みすゞ記念館館長)
『致知』2011年7月号
特集「試練を越える」より
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震災後、繰り返し津波が襲ってくる映像を目の当たりにしながら、
直接被害を受けなかった人たちがなすべき仕事があるなと感じました。
それはいかに日常生活をきちっと過ごすかということです。
震災2日後、予定どおり京都で開かれる講演会に向かい、
その足で東山にある禅林寺・永観堂を訪れました。
そこでお聞きした法主のご法話に私は深く感ずるものがあったのです。
「仏教の言葉に代受苦者(だいじゅくしゃ)というものがあり、
これは本来私が受けていたかもしれない痛みや苦しみを、
代わりに受けてくれている人を指します」
この言葉をお聞きした瞬間、私は大きな衝撃を受けました。
私が受けていたかもしれない苦しみを、
今回は東日本の方々が代わりに受けている。
本来であれば私が被災者であったかもしれない、
そう考えるとすべてが自分の問題に見えてくるのです。
いま日本全体に一体感が生まれていますが、
これも時が経てば被災した人と被災しなかった人との間に
無意識のうちに溝が生じてくるでしょう。
私自身も、いつしか被災した人々のことを
他人事のように考えてしまう可能性が十分にあります。
「代受苦者」というこの言葉は、
被災者と私の間に横たわる目に見えない境界線を消し去ってくれました。
私そのものである被災者のために、自分にできることを考えて、
なんでもしよう、そんな気持ちが湧き上がってきました。