まほろばblog

「人間の運命を決める“命の器”」

10月 22nd, 2012 at 8:19

    宮本 輝 (作家)

        『致知』2012年11月号
       特集「一念、道を拓く」より
  http://www.chichi.co.jp/monthly/201211_index.html

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【記者:宮本作品には波瀾万丈な生い立ちからくる
    「影」のような部分が感じられません。
    そういうものは昇華されたのでしょうか】

人よりいろいろな経験はしてきたかもしれませんが、
僕自身は深刻になったり、人生を悲観することはなかったんですね。

そしてどこかに

「十年先か二十年先か分からないけれど、
  必ずこれが自分の宝物に替わる」

と思っていたところがありました。

【記者:渦中にある時から】

そうです。まずもってパニック障碍になって
会社を辞めざるを得なかったけれども、
それがなかったら小説家になっていないでしょう。

青年期は混乱していた家庭から逃避するように、
文学の世界へ浸っていきましたし。

結核病棟に放り込まれて死んでいく人を何人も見たことも、
病棟での人間ドラマも、人生のあらゆることが
後の作品に生かされていると思います。

【記者:人間における運や縁というものをどのようにお考えですか】

出会いというのは、偶然ではないと思うんですね。
これは動かしようのない一つの法則性があって、
どんな人に出会うかは自分次第なんですよ。

そう思いません? 

運の悪い人は知り合う人もやっぱり運が悪いですよ。
やくざの下にはやくざが集まる。
性悪女は性悪男とくっつく。
これは不思議なものです。

仮に性格のいい人と付き合っても、次第に離れていきます。

だから「嫁さんは立派だけど、亭主はねえ」
なんていうことはなくて、
家庭の中に入ってみたら似た者同士ですよ。

どちらか一方だけが悪いなんていうことはない。

それを分かりやすい言い方をすると、
「命の器」だと僕は言うんです。

人と人は、その人の最も核となるもの、
基底部を成している傾向性が共鳴し合う。

要するにどんな人に出会い、縁を結んでいくかは、
その人の「命の器」次第ということです。
そして、その出会いの質を変えるには、
自分が変わるしかないんです。

【記者:自分の「命の器」以上の出会いも縁もないと】

と思います。

そういう意味では、今回の作品もそうですが、
僕は善き人たちが繋がり合っていくことで、
ささやかであっても人間的に成長したり、
小さな幸福や幸運の連鎖が起こるような、
そんな作品を書こうと思ってずっとやってきました。

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