成功の条件は「VW」の二文字
10月 24th, 2012 at 13:11 山中 伸弥 (ノーベル医学生理学賞受賞者・
京都大学iPS細胞研究所所長)
『致知』2012年11月号
特集「一念、道を拓く」より
http://www.chichi.co.jp/monthly/201211_pickup.html
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僕がアメリカのグラッドストーン研究所に留学していた頃、
恩師から「VW」という言葉を教わりました。
科学者として成功するためには、この二文字が大事だというんですね。
ビジョンのVとワークハードのWの頭文字で「VW」。
長期的な展望としっかりした目標を持ち、
懸命に努力を重ねればその一念は必ず叶うということです。
日本人はワークハードにかけては世界に誇れますが、
ビジョンをはっきりさせることなしに、
とにかく一所懸命実験しているだけ、
一所懸命勉強しているだけという状態に陥りがちだと感じています。
iPS細胞の目的の一つははっきりしていて、
医療応用を一日も早く実現し、
病気で苦しむ患者さんの治療に貢献することです。
そのために、私はある時はロボットに徹して
着実にプロジェクトを進めていく必要性を感じています。
ただiPS細胞の可能性は絶対にそれだけではないはずで、
若い世代の人たちから思いもかけなかった
使い方のアイデアを出してもらいたいと切実に願っています。
日本がやらなくとも、アメリカが中心になって
どんどん研究を進めていくのは間違いありませんが、
あちらの国が手を出さない部分もいっぱいあるんですね。
特に難病の治療などビジネスになりにくい、
製薬会社が手を出さないような部分は切り捨てに近い状態で、
これには国からの支援が不可欠です。
僕自身も毎年フルマラソンに出場したりしながら
民間からの寄付を一所懸命集めていますが、
やはり国からのお金に比べると何百分の一程度にしかなりません。
利潤追求の姿勢からは見過ごされてしまうような
病気の治療を推進していくことが、日本の使命だと考えています。
我われは実際にiPS細胞をつくって
科学技術の可能性は凄いと実感しました。
医学や生物学が進むといまは夢物語にすぎないことが
「できるようになるんじゃないか」と期待が持てる。
多くの人の地道な研究が積み重なると
ブレークスルー(突破口)が生まれます。
たまたま我われはiPS細胞をつくりましたが、
その前に多くの科学者の血の滲むような研究がありました。
大事なのは少しでも多くの知的財産を生み出すことで、
欧米に対する競争意識を保ち、
その競争意識を研究の促進へと
繋げていくことだと感じています。