「さようなら」の意味は?
1月 22nd, 2013 at 8:17『日本のこころの教育』より
境野 勝悟 (東洋思想家)
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わたくしが勤めさせていただいた「栄光学園」という高等学校は、
ミッション・スクールでした。
校長はドイツ人のグスタフ・フォスという神父さんでした。
いつも青い目が美しく輝く、肩の張った逞しい校長先生でした。
その校長先生が、ある卒業式の日に、
長い訓話の最後にこんな話をしたのです。
「きょうは、諸君たちと、お別れしなくてはならない。
だから、さようならと言わなければならないが、
さようなら、といいたくない。
なぜかというと、『さようなら』という意味が、
はっきりわからない。
わたくしは、もう、三十年も日本に滞在しています。
日本に来たときから、さようならの意味を知りたくて、
たくさんの日本人に、この意味をきいたのですが、
だれ一人として、この意味を教えてくれません。
お父さんやお母さん、中学や高等学校の先生方にも
お尋ねしたのですが、だれも、答えてくれませんでした。
そこで、きみたちとの大事なお別れに、
意味のわからない『さようなら』をいっては、
無礼になるんじゃないのか、と思って、
今日はさようならの代わりに、
『グッド・バイ』という別れの言葉を差し上げましょう。
『グッド・バイ』とは、もとは『ゴッド・バイ』です。
『ゴッド』とは神様で、『バイ』はそばにという意味です。
神様よ、諸君のそばにいて、諸君たちをよく守ってくれますように、
『グッド・バイ』……。そして、もう一つ
『シー、ユー、アゲイン』また会いましょう」
校長先生はこういう話を力強くされて、両手を高くかかげ、
壇上から降りたのです。
そのとき。わたくしは胸の中で、
「さよならの意味か? 俺もわからないなあ」と思っていました。
が、話がこれだけで終われば、なんの問題もなかったのです。
事件は、このあとの先生方のパーティーの席上で起こりました。
(続く)