まほろばblog

「私の鼓動を止めてしまうほどの感動」

2月 3rd, 2013 at 10:18

        堀内 永人 様(静岡県三島市在住 82歳 作家)

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■はじめに
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人は馬齢を重ねると、経験が豊かになり、
少々のことには動じなくなる反面、頑固にもなる。

80歳を過ぎて「世捨て人」ならぬ
「世拗(す)ね人」となった私は、
新聞やテレビで報道される若者たちの生態を見て、
「近頃の者はなっておらん」
とかなんとか言って、腹を立てることが多く、
感動することは、すっかり忘れてしまった観がある。

そんな折、三戸岡道夫先生
(作家、『二宮金次郎の一生』の著者)から、

「ちょっとした小話のネタにいいと思いますので、
 ご参考までにお贈りいたします」

と、書かれた便箋が添付されて、1冊の本が送られてきた。

その本の題名は、

『心に響く小さな5つの物語』
(藤尾秀昭著、致知出版社、価格は1,000円)

俳優の片岡鶴太郎氏の筆になる挿し絵が、
随所にちりばめられた上製本で、
巻末の「あとがき」まで入れて、77ページ。

ちょっとの空き時間を利用して、気軽に読める本である。

一見、詩集と見紛うばかりのこの可愛い本が、
私の鼓動を止めてしまうほどの感動を与えようとは、
このときはまったく思いもしなかった。

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■最初のおどろき
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それから、数日後の夜、私はベッドに横になり、
この『心に響く小さな5つの物語』を開いた。

本は、14ポイントくらいの大きな活字で、
しかも、1行25字、1ページ8行、
1ページ平均100字くらいの文字数である。

視力の衰えた私にも、老眼鏡なしで、らくらくと読めた。

第1話は、小学生の作文を引用して書かれてあり、
2分足らずで読んでしまった。

「そうか! この作文を書いたのは、
 小学6年生の時の鈴木一朗君か。

〈栴檀(せんだん)は二葉より芳し〉
というが、これは、この少年のためにある詞(ことば)だったのか」

第1話を読み終えた私は、目を閉じ、大きく深呼吸して、
胸の高鳴りを抑えた。

それほど、感動したのである。

続いて第2話も、あっという間に読んでしまった。

読み終わった私は、言葉や文字では表現できないほどの、
大きな感動が胸いっぱいになり、胸がジーンとなった。
口を利けば、涙がこぼれてきそうだった。

ここ10年、いやいや80余年の人生のうちで、
これほど大きな感動を受けた本があっただろうか。

隣りのベッドにやすんでいた老妻が、
私の挙動をいぶかしんで起きあがり、

「どうかなさいましたか?」

と、声をかけてきたほどである。

私は、声が詰まり、返事ができなかった。

「いや、なんでもない」

それだけ言うのがやっとだった。
口を利けば涙がこぼれそうで、それ以上は言えなかった。

私は、本を両手に持ったまま両眼を閉じ、
しばらくの間、胸の高まりの静まるのを待った。

一呼吸の後、私は、

「先日、三戸岡先生からいただいた、
 この『心に響く小さな5つの物語』を読んで、
 久し振りで感動した。胸が熱くなった。
 実に素晴らしい本だ。

 字も大きくて、平易なことばで書かれているので
 とても読み易い。
 年寄りから小学生まで読めるとてもいい本だ。
 あとで読んでごらん」

そう言って、表紙を老妻に見せた。

老妻は、日頃「冷血動物」と揶揄(やゆ)されている私が、
珍しく涙ぐんでいたので怪訝な顔をして、

「そう、どんな内容の本ですか?」

と言って、螢光灯スタンドの灯りに照らされた表紙と私を、
半々に見ながらベッドに戻った。

この『5つの物語』を読んだ、
青森県の中学3年生の小崎絢加(おざき あやか)さんは、

私が、この物語を読んですばらしいなと思ったのは、
物語自体は、この大きな世界で、小さな小さな物語だけども、
この物語を通して私の心に響いてくるものは、
とても大きなものということです。(後略)

と、感想文に書いている。

(致知出版社、『5つの物語新聞』、平成22年7月15日号所収)

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