「土光敏夫氏に教わった経営と人生」
2月 18th, 2013 at 9:17平林 武昭 (日本システム技術社長)
『致知』2013年2月号
特集「修身」より
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昭和三十七年、私が石川島播磨重工業に
入社した時の社長が土光さんだったんです。
その頃は瀕死の重傷に陥った
石川島播磨の経営再建を成し遂げて
社会的に注目を集めていらっしゃいましたが、
そういう人と偶然とはいえ、
巡り合えたのは幸せだったと思います。
格調高き人物に出会いの縁・運があった。
縁とか運とか目に見えないものを大切にすることで、
道がひらかれるのではないでしょうか。
土光さんと私はまったく次元が違うし
比較にもならんのだけれども、共感するところがありましてね。
一つには土光さんは岡山市、私は播州赤穂と故郷が近いんです。
そして信仰篤い家柄、なおかつお互いに農家の出でしょ。
春夏秋冬、とにかく休む暇なく
百姓仕事に汗したことも土光さんに共感した理由です。
それに、土光さんは受験の挫折とか代用教員を経て
大学に入るなど随分苦学されたようですが、
私も学区制を破って隣県の高校を受験しようとしたり、
親元を離れて千葉の高校に転校したり
向学心が旺盛でしたから、そういう点でも
親しみを感じるものがありました。
入社して間もなく我われ東京・豊洲
(当時は東京砂漠といわれていた)の
工場の新入社員五、六人で経営の勉強会を始めました。
ところが、ある時「経営は学か術か」というテーマで
社長の土光さんに一度講義をしてもらおうじゃないか
という話になりましてね。
新入社員のプライベートな勉強会なんか
普通、トップは来ませんわ。
ところが土光さんは実行の人ですよ。
勤務後、バスに乗って本社からやってこられたんです。
考えたらこれは大変なことでね。
私も「やはりただ者ではない」という思いを強くしました。
いまでも覚えていますが、
「議論する時は対等だ。同じ社員だ」
とおっしゃるんです。
大企業の社長と新入社員が対等なんてありえないでしょう。
でも土光さんは私たちの考えに
謙虚に耳を傾けてくださいました。
あの方は根っからの技術者なんです。
日本を技術立国にしようと努力した方だけに
技術者を凄く大事にされました。
工場視察に行くと普通のワーカーたちに
「ここはどうなっているのだ」と気さくに聞いて回られる。
それが楽しかったようですね。
労働組合の団交にも自ら行って腹を割って話された。
とにかく偉く見られようとか、地位に固執するとか、
そういう素振りは一切なかったし、
謙虚な姿勢は九十二歳で亡くなるまで変わりませんでした。
そういう姿を見ると誰だって信奉します。
素晴らしい傑物でしたよ。
Posted by mahoroba,
in 人生論