「よいデザインは人を変える力を持つ」
4月 15th, 2013 at 8:00 水戸岡 鋭治(工業デザイナー)
『致知』2013年5月号
特集「知好楽」より
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私自身はデザインというものを、
「整理整頓」の作業をすることだと考えているんです。
一般的な枠ではなかなか思い切ったことはできませんが、
どうしてここはこんなにすっきりしたんだろうと感じる時、
そこには必ず整理整頓をした人がいる。
それが設計者であったり、デザイナーであったり、
政治家であったりと立場の違いはありますが、
デザインの力によって空間は変化していく。
さらに、そこにいる人たちの意識までが変わっていきます。
だから私たちは現場に行くと、赤・黄・青の三つの紙を用意し、
これはダメという部分には赤、注意には黄、
OKには青を貼っていくんです。
そうやって皆さんに一目で分かるようにし、
色のバランスや形の統一、使い勝手などを調整していく。
要は整理・整頓・清掃・清潔・躾という5S、
つまり日本の会社を立て直す時に用いられてきた五つを、
デザインの中に持ち込んで実践していくんです。
私がJR九州の仕事に携わった二十五年前には、
日豊本線にせよ鹿児島本線にせよ、
夜乗るとビールの空き缶が床をゴロゴロ転がったり、
つまみが散乱したりしていて、酔っ払いがいっぱいいたんです。
だから子供たちや女性もなおさら嫌がっていたんですね。
でもその混乱した状態を整理すると、
そういう振る舞いができなくなってくる。
躾けられていくといいますか。
やっぱり環境によって人は育つもので、
そこでマナーやモラルを身につけたり、
ホスピタリティが生まれるところまでいくのでしょう。
デザイナーや設計者はそういった心地よい環境をつくることで
豊かな時間と場所を提供し、それによって
人の行いが変わる可能性を追求しているのだと思うんです。
(略)
だからデザインというのは、
本当は物凄く広範囲に及ぶ仕事ですよね。
人はいかに生きるべきかという部分にまで
関わってくるものではないでしょうか。
いかに生きるかとは、いかにデザインするかということ。
だから最も素晴らしいデザイナーはお母さんだと私は思うんです。
つまり子供をデザインする。
最も上位でデザインする人は総理大臣。
国家をどうデザインするか。
その中で私は職人として家や電車の設計を担当したり、
各人が美しい国や地球を守るための役割を
果たしているのだと思います。
Posted by mahoroba,
in 人生論