まほろばblog

「江戸時代のメンタルヘルス」

7月 5th, 2013 at 12:13
     立川 昭二(北里大学名誉教授)

              『致知』2013年8月号
               特集「その生を楽しみ、その寿を保つ」より

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貝原益軒の後輩の水野沢斎は養生には三つあると話しています。

一つが身養生」、

二つ目が心養生」、

そして三つ目が家養生です。

この三つは巡り巡っていると考えていて、
身体がよければ心もよい。

心がよければ家も整ってくる。

逆に身体が悪ければ心も悪くなり、
心が悪くなれば家が悪くなると、
非常に地に足のついた、
あるいは生活者の視点に立った考え方をしています。

なかなか上手いことをいうものです。

人の生き方、あり方を詳しく述べているところに
私は『養生訓』の魅力を感じると申し上げましたが、
健康論そのものも現代人が考える健康法とは大きく異なっている。
ここもまた注目に値します。

例えば私たちが健康に関して語る場合、
何を話題にするかというと二つあるんです。

一つは病名の話。

糖尿病だとか高血圧だとか。
それからもう一つが臓器の話です。
肝臓がどうだとか、心臓がどうだとか。

ところが、驚くことにこの『養生訓』には、
一か所中風、いまの脳卒中のことに触れられているだけで、
他に病名の話もなければ臓器の話もない。

では、人間の体はなんでできているのか。
これが帯津先生が詳しく説かれる「気」なんですね。

例えば「気を減らすこと」「気を滞らせること」が
健康を損なうという言い方をしています。
その意味で益軒の学問は「気の医学」といってよいかもしれません。

益軒の健康論のもう一つの特徴は、
健康の最も大切な眼目として心の健康、
メンタルヘルスを挙げている点にあります。

健康とは心身の相関であるという
ホリスティックな考え方がここに出てきます。

心身のバランスがしっかりしていたら病気にならないし
人生を楽しく生きていくことができる。
これは現代に生かせる益軒の教えではないでしょうか。

例えばこういうことを言っています。

「常に元気をへらす事をおしみて、言語をすくなくし、
 七情(喜怒哀楽愛悪慾)をよきほどにし、
 七情の内にて取わき、いかり、かなしみ、うれひ、思ひを
 すくなくすべし。

 慾をおさえ、心を平にし、気を和にしてあらくせず、
 しづかにしてさはがしからず、心はつねに和楽なるべし。
 憂ひ苦むべからず。是皆、内慾をこらえて元気を養ふ道也」


怒り、悲しみ、愁い、嘆き。そういうことを
なるだけ避けて毎日を楽しく暮らしなさい、
心は常に和楽でなくてはなりません、
という考えは私などは大いに共感するのですが、
そういったことを繰り返し繰り返し説いている。

現代と同様、江戸時代の人たちにとっても
メンタルヘルスは非常に大切だったのでしょうね。

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