●吉野木挽唄
「吉野木挽(こびき)唄」。
先ずは、民謡歌手・小松祐二さんの歌を試聴して下さい。
この「吉野木挽唄」で思い出されるのが、映画『絶唱』で歌われた主題歌、
西条八十さんが作詞された同名の歌であった。
その中で挿入歌として、民謡が採り入れられて、
みなの心を揺さぶり、涙を誘った。
「 愛おしい 山鳩は
山こえて どこの空
名さえはかない 淡雪の娘(こ)よ
なぜ死んだ ああ 小雪
結ばれて 引き裂かれ
七年(ななとせ)を 西、東
いのち短く 待つ日は永く
泣きぬれた ああ 小雪
『 ハァー 吉野吉野と たずねてくればョ
吉野千本 花ざかりョ
ハァー いつの頃から
木挽きを習いョ
花の盛りを 山奥にョ 』
山番の 山小屋に
春が来る 花が咲く
着せてむなしい 花嫁衣裳
とこしえの ああ 小雪
ムムムムムム・・・・・
なぜ死んだ ああ 小雪 」
大地主の息子・園田順吉と山番の娘・小雪との悲恋を描いた大江賢治氏の同名小説。
身分の違いで、引き裂かれた仲。
山中と戦地で、同時刻にこの「木挽唄」の唄を重ね合う。
戦争なるが故の悲恋でもあり、その哀しさを一層浮かび上がらせる。
唄には、そんな力がある。
特に、当時、青春歌手だった舟木一夫の歌声には、その叙情が偲ばれた。
その第一作の映画が、小林旭と浅丘ルリ子。
その旋律は、元唄に近い。
九州は宮崎の「刈り干切り唄」のように、
本家は陽旋法で、労働歌で明るかった。
それが、芸者さんの謡う、お座敷唄に取り入れられて、
陰旋法の短調的な陰影のある調子に変った。
この「吉野木挽き唄」も、健康的な元唄から離れて、
情緒的な日本人の内面を表現するようになる。
雅楽の陰陽の両旋法に見られるように、
歓びと悲しみが入り混じって、人の世となり、人生にもなる。
明るきも良し、暗きも良し。
それぞれに深い感慨があって、人の一生は豊かに彩られる。