森田 直行
(京セラコミュニケーションシステム社長)
1997年5月号
特集「リーダーシップの本質」より
※肩書きは掲載当時です。
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よく稲盛からは、
「お前のルールは論理的には正しい。
しかし、このルールでは人のやる気は出ない。
やる気のない人間がいくら集まっても、
会社は立派にならないじゃないか。
いい方向に行かないな。それじゃだめだ」
と言われました。
ルールは論理的には正しいが、
メンタルな面でまちがっている、というんですね。
例えば、新製品が出ると、古い製品は売れなくなって
デッドストックになってしまいます。
そのデッドストックの処理について、
事業部からある提案が上がってきたんです。
デッドストックが出たときに、そのつど処理していたのでは、
採算計画が狂ってしまいます、
そこで月々どのくらいのデッドストックが出るかを計算して、
デッドストック処理のための経費を毎月積み立てておきたい、と。
で、デッドストックをその積み立て金で
相殺するという提案です。
私はなるほどそうだなと思いました。
そういう積み立て制度があったほうが、
確かに効率はいい。
で、案をつくって稲盛のところに持って行ったのです。
(記者:稲盛会長はなんと?)
ガツンとやられました(笑)。
「お前の案は論理的には正しい。
しかし、これはメンタルではだめだ。
そういうルールを認めてしまうと、
デッドストックは出るものだとみんな思ってしまう。
そういう気持ちでみんなが働けば、
デッドストックはいまよりもっと増えるぞ。
デッドストックはゼロにしなければいけないんだ。
そういう心をいつも持たせるような
ルールをつくらなければだめだ」
なるほど、納得です。
グーの音も出るものではありません(笑)。
しかし、稲盛はなぜだめかを丁寧に教えてくれるんです。
その教えはいまの私にとって大きな財産になっています。
(記者:稲盛会長は、
「大善は非情に似たり、小善は大悪に似たり」
という言葉をよく使われますね)
このルールは小善なんですね。
私としてはみんなのためによかれと思って提案したのですが、
広い視野でみれば、このルールでは士気は下がるばかりです。
経営者とわれわれとの視野の違いを思い知らされました。
本当の士気というものは、つらいかもしれないが、
事実を真正面から受け止め、
それを乗り越えていこうとするときに生まれるんです。
大善を貫くには、ときには厳しいルールを
つくることも必要なのです。