森岡 恒舟 (筆相研究の第一人者)
『致知』2011年9月号
※肩書きは掲載当時です。
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その人の深層心理は、その人の書く字に表れ、
その人の字を見れば、その人の深層心理が分かります。
そして、その人の字を書く時の習慣、
つまり深層心理の習慣は、他の行動にも顔をのぞかせるのです。
(中略)
源義経の字を見てみると、非常に個性的で、
まず左払いが大変長く突出しています。
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普通であれば深層心理が働いて一定の長さで
ストップさせるところを、
さらに突き抜けて伸ばすというのは、
人並みを超えて目立つわけですが、それで平気だということ、
目立つことが好きだということです。
実際に義経は、五条大橋で弁慶と大立ち回りをやったり、
鵯越の逆落としをやったり、
ことごとく世間の耳目を集める派手な行動をとっています。
深層心理としてそういうことを躊躇せず
やっていける人だったのです。
ただその一方で、義経の字はいずれも
右側へ転びそうなものが多いことも注目に値します。
こういう字を平気で書くところに、
あまり安定した状態を好まない深層心理が表れています。
むしろ転びそうな不安定な状態を自ら求めていたり、
転びそうになってもスイスイ乗り切って
そのことに気持ちよさを感じたりする傾向が見て取れます。
それが人間関係にも影響し、
頼朝との関係に破綻をきたしたとも考えられるのです。
* *
突出するという点では、明智光秀の縦線下部の
引き延ばし具合も尋常ではなく、
これほど長い書き方は歴史上でも希です。
彼がもし枠の中に収まる程度の文字しか書かない人物であれば、
本能寺の変などという大それた事件は起こさなかったでしょう。
信長の逆鱗に触れてもひたすら謝り、
左遷先で堪え忍んで一生を終えたと思うのです。
* *
吉田松陰の筆跡には非常に行動力が感じられます。
そして右上がりの度合いが強いところから、
保守的で柔軟性に欠けるところがあり、妥協を嫌います。
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(※2つ目の画像をご覧ください)
そうした深層心理が、黒船に乗り込もうというような思い切った行動や、
己の信念を貫き、最後は斬首されるという結末を暗示しています。
かつて学生運動が盛んな頃、大学の構内に掲示されていた看板に、
松陰に似た筆跡がよく見受けられたものです。
* *
東郷平八郎の筆跡は、偏と旁がグッと密着しています。
これは包容力があって多くの人を束ねるトップリーダーというより、
人の意見に左右されず、自分の信念を貫くタイプです。
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(※3つ目の画像をご覧ください)
中国では偏と旁の間を気宇、心の広さを表す空間と捉え、
なるべく間隔を広くとって書くのがよいとされています。
一方で技術者は偏と旁の間を狭く書く傾向があります。
寿司職人などは客の言いなりになっていたのでは
うまい寿司は握れません。
「俺の握りが嫌なら、よそへ行ってくれ」とばかりに
自分のやり方にこだわり、それを通すタイプは
偏と旁の間は広く書けないのです。
東郷の筆跡にもそういうところが見て取れ、
実際、寡黙でいろんな意見を取り入れてという
タイプではなかったようです。
彼がもし偏と旁の間を広く書くような人であったら、
バルチック艦隊が近づいているという情報が入ったら、
心の中にはこうすべきだ、ああすべきだと、
いろんな人の意見が入り込んで千々に乱れていたでしょう。
東郷はやはり周りの雑音を受け付けず、
こうだと決めたことを徹底する前線指揮官のタイプであり、
だからこそ最強のバルチック艦隊を撃破し、
日本を勝利へ導くことができたのだと思います。
* *
最後に、経営者を一人だけ見てみましょう。
「経営の神様」と謳われ、経営者に限らず
様々な人にいまもなお多大な影響を与え続ける松下幸之助。
その筆跡は、小ぢんまりとまとめずにグッと大きく広げて書くのが特徴で、
心の内からほとばしり出るものが伝わってきます。
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(※4つ目の画像をご覧ください)
これは豊臣秀吉の書き方によく似ており
私は太閤相と呼んでいます。
また「助」という字の最終画が点になっていることから、
普通の人が考えつかないことを考え出す
アイデアマンであったことが窺えます。
さらに、縦線の上部への突き出しはそれほど際立っておらず、
包容力豊かなリーダーというより信念を持った技術者タイプです。
実際、細かいことに非常に厳しい人だったという話も聞いていますが、
それでも多くの人がついていったのは、
やはり太閤相にも表れているような人間的魅力があったからでしょう。
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筆相を変えることによって、自分自身の運命をも
高めていくことができると言われる森岡氏。
『致知』9月号では、そのほか、聖徳太子や西郷隆盛、
大久保利通などの筆相についても解説いただきました。
ぜひご一読ください。