「解決は進歩を、進歩は問題をはらんでいる」
土曜日, 11月 26th, 2011 『致知』1994年3月号
特集「高め深める」より
※肩書きは掲載当時
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勝つことで強くなるのか、
強くなることで勝つのか。
これは同じことだと思うかもしれないが、
決して同じではありません。
まず最初に定石(※昔から研究されてきて最善とされる、
きまった石の打ち方)が打たれる。
定石はその定石から発展して布石を形成し、
布石は中盤を、中盤は終局へと発展する。
しかし、この展開は常に問題をはらんでいます。
一つの問題を解決することによって、
さらに次の問題が提起されてくる。
常に解決は進歩を、進歩は問題をはらんでいる。
このように変化と人間の頭脳は
無限に発展していくのです。
この無限の変化発展に対応する定石を
究め尽くすことは、いかなる達人といえども難しい。
難しいことではあるが、それでもなお究め尽くし、
揺るぎのない石の姿を形成していこうとする。
それが芸ということです。
私は何よりもそれを大切にして碁を打つ。
これがしっかりできれば、勝ちは結果として
出てくるということです。
このことは、厚みと実利というふうに
いい換えることもできると思います。
厚みとは弱点のない、しっかりした石の姿です。
実利は対局者いずれかの領分(地)のことだと
思ってください。
厚みを重んずればどうしても実利を失うし、
実利を重視すると、厚みを失うことになる。
厚みは信用で実利は現金のようなものです。
いま現金を取るよりも信用を取ったほうが、
いまは損なうようでも将来は何倍もの利になる、
ということですね。