「本当はこんなに強かった日本の農業」
木曜日, 3月 22nd, 2012 『致知』2012年3月号
連載「意見・判断」より
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2000年に農業技術通信社に転職した私が、
初めに行ったのは農業の市場規模調査である。
その結果分かったのは、
日本は世界第5位の農業大国であること。
農業生産額は約8兆円で、これは
中国、アメリカ、インド、ブラジルに次ぐ数字だった。
日本の農業は衰退産業であるといわれて久しいが、
これが実態と遊離していることはスーパーに行けば一目瞭然だ。
店内には1年を通じて豊富な農産物の食材が並び、
その多くは国産表示である。
ではなぜ日本の農業がこれほど強くなれたのか。
次の5つの観点から考えてみると分かりやすい。
●まず、国土が南北に長く、高低差に富み、
四季折々の農産物を1年を通じてつくれること。
●次に、日本が先進国であること。
法治国家で貨幣も安定し、物流等のインフラが整っているため、
農産物の生産から販売までが混乱なく行える。
鮮度を保てるクール宅配便や、
カード決済の可能なネット通販が普及していることなども
農家が自立できる一要因である。
●3つ目に、国民の購買力が高いこと。
不況とはいえ日本人の所得は世界全体で見れば高水準。
日本の生産量が世界トップレベルにある作物を見ると、
イチゴやメロン、桃など単価の高い嗜好品が
ウエイトを占めているのが特徴である。
●4つ目に、独自の食文化を持っていること。
食生活がいくら洋風化したとはいえ、
和食の地位は確固たるもので、
特に米に対するこだわりは世界にも類を見ないほど。
さらに、中華、イタリアン、フレンチなど、
多様な食文化を取り入れる消費者のおかげで、
農家もバリエーションに富んだ新食材をマーケットに導入できる。
●5つ目は、産業技術や農業技術のレベルが高いこと。
日本には最新の機械工学やバイオテクノロジーなどが
揃っており、車の開発技術をトラクターに応用したり、
環境制御技術をビニールハウスに活用することもできる。
中でも品種改良技術は世界トップクラスで、
イチゴを例に挙げてみると、世界に約600ある登録品種のうち、
180種以上は日本の保有で世界一。
また、農業に関する研究も、各県に農業試験場や
農業高校、国立大学に農業学部があるなど、
世界における農業研究開発予算のうちの
実に約3割を日本が占めているのである。
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日本の農業には圧倒的な強みがありながら
その正味の実力に多くの人が気づいていないのはなぜか?
「食料自給率40%前後」という数値のカラクリとは?