小林 陽太郎 (富士ゼロックス会長)
『致知』1994年5月号
特集「積極一貫」より
※肩書は『致知』掲載当時です
──────────────────────────────
当社では1976年にTQC
(※TQC=企業の中のあらゆる人が参加して
進める品質管理、全社的品質管理)
を導入して、2年後の1978年には
当時としては画期的な商品を送り出すことができました。
(略)
【記者:アメリカのゼロックスができなかったことを
やったというので、その秘訣を聞かせろといってきますね】
ええ。親ができないことを孫がやったようなものですからね。
英語で話すわけですから、パンチが利くほうがいいだろうと思って、
最後にABCDの例え話をしたんです。
Aは「aspire」です。
最初に何か「したい」と思わなくてはならない。
クラーク先生ではないけれども、志が必要です。
次に「believe」。
自ら信じなければいけない、
志を持つのはいいけれども。
「そんなこといったってうちはできませんよ」
というのでは駄目です。
そして退路を絶って「commit」しろということです。
具体的に計画を作り、予算も人も配する。
そして最後は「do」。
やるしかないということです。
「日本語で説明すると難しくなるけれども、
英語でいえばわかりやすいでしょう」
と私がいうと、ゼロックスのトップたちは一様に
「イエス」とうなずきました。
【記者:自ら信じるということは明るいということですね。
その心構えで、積極的にやるんだということですね】
明るく、というのはまさにそうなんです。
おもしろく、楽しいということですね。
TQCのあと、ニュー・ワークウェイ運動というのを始めましたが、
その目指す方向の一つに快適なビジネス環境を
つくりたいということがあります。
環境は厳しいほうが優れたものができるという
考え方もありますが、実際はいかがでしょう。
快適な環境で、ゆとりもあって、
おもしろい仕事場のほうがクリエイティブな仕事が
できるのではないでしょうか。
実はゼロックスのトップに話をして何年かたってから、
管理職が自主的につくっている
ゼロックス・マネジメント・アソシエーション
という会があって、そこで話をしたことがあるんです。
既にアメリカ版のデミング賞に当たるゴルディー賞
というのをゼロックスが受賞していましたので
ABCDの話と昔はTQCの面で富士ゼロックスが
先生だったけれども、いまではゼロックスに学ぶ点が
たくさんあるんだという話をして帰ってきましたら、
早速何通か手紙が来ました。
「非常にいい話を聞かせてくれた.
とくにABCDの話がおもしろかった」
という手紙だったんですが、偶然3人ほどが
「ABCDだけでは完全じゃない」と同じことを
書いてよこした人がいるんですね。
「ABCDだけでは会社というだけじゃないか」と……。
というのは「E」、つまり「enjoy」が足りないというわけです。
【記者:ニュー・ワークウェイというからには
楽しみが欠けていては十分ではありませんね】
まったくその通りですね。
もともと私は明るく前向きに物事をとらえていかないと
展望は開けてこないんだという考え方でおります。