まほろばblog

Archive for 10月 10th, 2012

「八十二歳のコンピューターおばあちゃん」

水曜日, 10月 10th, 2012

  大川 加世子 (コンピューターおばあちゃんの会代表)

        『致知』2012年10月号
              致知随想より
            
    http://ameblo.jp/otegami-fan/
              (↑誌面未公開写真アリ)

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「たくさんの高齢者がパソコンのネットで繋がり
仲間意識をもって孤立しないで生きてゆきたいと?
お年寄りがパソコンなんてするはずないでしょう」

平成九年、当時六十六歳だった私は、
区役所に高齢者を対象とした井戸端会議ならぬ
パソ端会議を楽しむパソコングループをつくりたいと
申し出ました。

すると、返ってきたのは冒頭の言葉。
世間はまだそんな認識だったのです。

私は二十代の時に勤めた米国保険会社で
英文タイプを覚えた経験から、
子育てが終わって仕事に復帰してからも
ワープロ、パソコンを使ってきました。

そうして来るべき高齢化社会は、高齢者こそ、
障碍者こそがITの恩恵を享受してよいと思っておりました。

だからこそとにかく行動を起こしたいと思い、
無謀と言われながら区に施設の予約を入れ、
区報に「パソコンで遊びませんか?」と告知を出しました。

迎えた三月二十七日。その日は
朝から雨の降る寒い日でした。

馴染みの電気屋さんが貸してくれた
十数台のノートパソコンを前に、
「こんな日に人が来るかなぁ」と不安に駆られながら
施設で待っていました。

するとどうでしょう。

傘をさし、杖をつき、なんと百五十人もの高齢者が現れたのです。
急遽二部制にしても、入りきれず半分は最敬礼で謝り
お帰り願わなくてはならないという盛況ぶりでした。

そうして始まったこの会を
「コンピューターおばあちゃんの会」と名づけ、
これが全国に広がるのに時間はかかりませんでした。

待ちに待ったお仲間、パソコンを学ぶのではなく、
楽しむこと、遊ぶことを目的とし、
今年で運営十六年目になります。

全国約二百五十名と海外で高齢になられた
日本人高齢者がメーリングリストで繋がり、
時々開く「サロン」と年に二回の全国オフ会を開催するなど、
活発に活動を続けています。

最初は「コンピューターなんて絶対に無理。
チンプンカンプンだもの」と言っていた人も、
実際に触って面白さを実感すれば
どんどん使い方をマスターしていきます。

若い頃にジャズが好きだった人は
ジャズをどんどんダウンロードしたり、
油絵が趣味だった人は写真の加工をして作品をつくったりと、
自分の趣味を掘り下げ高齢者の底力を発揮しております。

また、みるみるお洒落になっていくのも
皆さんに共通していることです。
長く年を重ねると友人は減っていく一方ですが、
指先一つで繋がる仲間ができ、

最近はやはり高齢者問題が深刻な中国から取材を受け、
iPadの翻訳機能を最大限に活用、
中国と日本の高齢者同士の友好を深めました
(当会HPに掲載 http://www.jijibaba.com)。

いま、高齢者の「おひとり様」が増えています。
伴侶を失った後、煩わしいけれど子供家族と同居するか、
寂しいけれど気楽に一人で暮らすか。

どちらを選ぶかといえば、
いま多くの高齢者は気安さを選んでいます。

壮年期には分からないものですが
朝、目が覚めた時のシーンとした寂しいような静けさ。

でも、そんな時にパソコンを起動させれば、全国の仲間たちが
「昨日はどこに行った」「何を食べた」
とおしゃべりをしています。

それにコメントを返せば、また返信がくる。
そこに自分の居場所を感じるのです。

おひとり様が一年で一番寂しいのは元日の朝です。
数年前までは子や孫たちと一緒に過ごすのが日本の風習でしたが、
最近はおばあちゃんが
「大変だろうから、無理しないでいいわよ」と言えば、
本当にスキーにすっ飛んでいってしまう。

そうだ仲間たちと過ごそう。
そうして今年の元旦に初めて
「おひとり様の元日会」を開きました。

元日の朝、都内ホテルに集結。互いに送り合った
電子年賀状をiPadで確認。

和室でお屠蘇を飲み、お雑煮を食べた後、
楽しいひと時を過ごしましたが、
私はこの会は、単に寂しさを紛らわせるだけで
終わらせてはいけないと思っていました。

何か自分たちが世の中で役に立ち、
必要とされていることを実感できる活動をしたい……。

そんな思いを巡らせていた時、
「大川さん、いまの大学生は日本の伝統的な
お正月のことを何も知らないから教えてあげてください」
と、慶應義塾大学の先生からの申し出がありました。

そこで元日の午後はおばあちゃんたちと大学院生のコラボが実現。

「昔はお正月にこんなことをして遊んだのよ」

「昔、会津のお雑煮はこうだったのよ」

次から次におばあちゃんたちが思い出を語れば、
学生たちは「へー」「ほー」と目を丸くして
iPadやiPhoneでサクサクと昔の習わしを検索。

そして、おばあちゃんたちとの様子を写真に撮って
どんどんFacebookにアップしていくのです。

一日が終わり、
「私たちもまだまだ世の中に役立つことがあるのね」
とおばあちゃんたちが嬉しそうに帰っていったことが
この会を開いた一番の収穫でした。

いま、私たちにとってパソ端会議は
何よりの「予防医学」であり、
同時にガスや水道と同じくライフラインになっています。

三日前にたった一人で孤独に死んでいた――。

そんな人を減らしていかなければなりません。
その思いで

『コンピューターおばあちゃんといっしょに学ぶはじめてのiPad入門』

という本もまとめました。

パソコンで楽しく遊びながら、
たくさんの仲間たちと繋がりましょう。
パソコンの向こう側には、まだ見ぬ広い世界が待っています。

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★コンピューターおばあちゃんこと、
 大川加代子さんの写真をブログで紹介しています。
 82歳とは思えぬ若々しさです!(誌面未公開)
 http://ameblo.jp/otegami-fan/

「科学研究の2つの使命」

水曜日, 10月 10th, 2012

      山中 伸弥 (ノーベル医学生理学賞受賞者・
              京都大学iPS細胞研究所所長)

              『致知』2012年11月号
               特集「一念、道を拓く」より
  http://www.chichi.co.jp/monthly/201211_pickup.html

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僕も科学研究には極端に分けて2つあると思うのですが、
1つはいま川口先生が言われた、
すでに分かっているようなこと。

誰かが「警視庁の調査みたいだ」と言いましたが、
犯人は絶対にいることが分かっていて、
問題はいかに早くその犯人を見つけ出せるか、
しらみ潰しで探していく研究の仕方ですね。
これはこれで大切です。

片や昔、大航海に乗り出されたように、
そこに何があるか分からないけれども、
行かないわけにはいかんでしょうと。

行ってみたらきっと何かがある。
それが役に立つか立たないかなんて分からないけれども、
行くこと自体に価値があると。

僕はその両極端、両方ともが非常に大切だと思うんです。

【川口 山中先生の場合は、その発見が
    利用にも繋がっていくところが素晴らしいですね】

確かに、僕たちも最初は大航海型で、
ともかく乗り出そうという感じで行ったのですが、
たまたま宝の山のようなものが見えてしまって。

すると今度はそれをいかに完成させるか、
いかに早くゴールへ辿り着くかが問題になっていて、
iPS細胞ができる前後ではまるで別の仕事のようになっています。
いまはもう完全に「開発」の段階ですね。

       (略)

特にいまは震災の影響もあって、
国民への理解をと言われると明確なゴールを示さないといけない。
事業仕分けもあって科学技術予算はますます圧迫されていますし。
iPS細胞は図らずも開発の段階へと入っていきましたが、
でも、それだけをやっていたのでは次がついてこない。

新たな発見のためには未来への投資が不可欠です。

【川口:おっしゃるとおりです。出口の見える研究、なんてよく言われますが、
    あんまり近い出口ばかりを見過ぎていますよね】

はい、その両方が絶対に大切です。
10年ほど前にはiPSのアの字もなかったですし、
僕らも出口なんか全然見えていなかった。

でも科学研究の場合、どこから芽が出てくるか分かりませんから、
水はちゃんとやっていかないといけない。
したがっていまの2つのことを同等に議論したり、
同じ天秤にはかけられないと思うんです。

「はやぶさ」を奇跡の帰還へと導いたリーダー

水曜日, 10月 10th, 2012

  川口 淳一郎 氏の名言

       『致知』2012年11月号
         特集「一念、道を拓く」より
 http://www.chichi.co.jp/monthly/201211_index.html

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 ◆  本当に好きなものを見つけるまでは、
   三日坊主で大いに結構だと思うんです。

   もちろん一日でやめちゃダメですが、
   三日坊主は「二日頑張った」というところが大事なんですね。
   それで三日目に展望が開けなければ、別の道へ行けばいい。

 ◆  自分が本当にやりたいことが何かに気づくには、
   ある瞬間が来なければダメなのだと思います。

 ◆  何よりも大事なのは、
  「自分がこれをやり遂げよう」という気持ちが
   プロジェクトの中に埋め込まれているかどうかです。

 ◆  誰も足を踏み入れていない所へ
   乗り出そうとする気持ちそのものが、
   すでに独創なんですよね。

 ◆  何か新しい成果を出してこよう、発見しようと思ったら、
   漫然と覗き込んでいちゃダメなんですよ。
 

 『致知』11月号特集テーマ「一念、道を拓く」
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   ▼はやぶさ×iPS細胞  世紀の偉業を成し得たもの
       川口淳一郎(宇宙航空研究開発機構シニアフェロー)&
       山中伸弥(京都大学iPS細胞研究所所長)

「ノーベル賞受賞者・利根川進教授への質問」

水曜日, 10月 10th, 2012

おめでとうございます!!!

         山中 伸弥 (ノーベル医学生理学賞受賞者・
              京都大学iPS細胞研究所所長)

       『致知』2012年11月号
         特集「一念、道を拓く」より
  http://www.chichi.co.jp/monthly/201211_pickup.html

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臨床だったら予想外のことが起こると、
こりゃもういかんとなりますが、
研究ではそうやって予想外の結果を楽しめることが
大事だと考えています。

それにしても、僕の場合は研究テーマが
ころころころころ変わって……(笑)。

【川口:私はいいと思いますけどね。
    研究テーマは変えるべきじゃないかと思うんです。
    そうやってどんどん違う世界を、
    違うページを次々に開いていくようでないと、
    逆にダメなんじゃないかなと】

なるほど。いや、そのとおり、
僕もいま結果としてそう思うのですが、
30代の半ば頃は自分のポストもまだない段階で、
これから教授職などにトライしていかなければと考えていた時期でした。

そんな時、周りの先生方の話を聞いていると、
「日本では研究の継続性が評価される」ということが
よく言われるものですから、これは大変だと。

僕は整形外科医に始まって、
僅か数年で2回も3回も研究テーマを変えている。
かえてないのは嫁さんだけやなぁ(笑)、
なんて思いながら、これでいいのかなと少し不安になりました。

そんな時に偶然、ノーベル賞を受賞された
利根川進先生の講演を聴く機会があったんです。

【川口:もともと免疫の研究をされていて、
    その後、脳科学の研究に移られた先生ですよね】

はい。まさに途中でテーマをころっと変えられたわけです。
それで講演後の質問タイムに勇気を出して手を挙げました。

「日本では研究の継続性が大切だと言われますが、
 先生はどうお考えですか?」。

すると先生は「一体誰がそんなことを言ったんだ」と(笑)。
「重要で、面白い研究であれば何でもいいじゃないか」と言ってくださって、
凄く勇気づけられたことを覚えています。