「実践×読書で経験値を倍増する」
火曜日, 12月 4th, 2012桑原 豊 (ワタミ社長)
『致知』2012年12月号
連載「20代をどう生きるか」より
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一年間の修業で技術を身につけた私は、
開業資金をつくるため、当時外食産業で給料がよいと
評判だったすかいらーくへ友人の紹介で入社した。
私が修業していた店はコーヒー専門店とはいえ、
本格的な料理も提供していたため、
自分が一番できると思っていたが、とんでもない。
高校生のアルバイトより仕事ができないのだ。
彼らは皆、一所懸命働き、自ら進んで掃除などをしている。
「なぜ彼らはこんなにも意識が高いのだろう」と不思議に思った。
さらに驚いたのは社員教育の仕組みである。
三か月ほど経った頃、店長から突然、
「アルバイトの面接をしてください」と頼まれた。
その後さらに、「トレーナーになってほしい」と言われ、
新人の指導をすることになった。
最初は戸惑いながらも、会社の理念や作業の手順を教えていくと、
自分が会社を代表して話しているという自覚が芽生え、
どんどん自分の身に沁み込んでいくとともに、
自ら学ぼうとする姿勢が育っていった。
一方で、毎日お店には、ステーキはグラムでポーションされ、
ホワイトソースは一人前がパックになった状態で
工場から届けられる。
入社前、私は「どうせチェーン店なんてレンジでチンだろ」と
馬鹿にしていたが、その後の調理は個人店となんら変わりない。
この時私は、これらの「仕組み」があるからこそ、
アルバイトの高校生でも料理をすることができ、
お店のためにイキイキと働くことができるのだと気づかされた。
と同時に、これはいったい誰が考えているのだろうかと思った。
それ以外にも、毎月送られてくる新しいメニューは
誰が考えているのだろう。
お店に商品が入ってくる前の一次加工は
誰がしているのだろう……。
そうして、複数の人たちがフォローし合いながら
チームワークでつくり上げていく「組織」というものに
強く興味を抱くようになっていった。
言ってみれば、個人店は1+1が2の力にしかならない。
一方、チェーン店で働いて分かったのは、
組織の中で一人ひとりの力は足し算にとどまらず、
相乗作用を引き起こすのだということ。
私にはコーヒー専門店をやりたいという夢があった。
しかし、自分という一人の人間が皆に
少しでもいい影響を与えられる仕事は
どっちだろうかと考えた時、私が出した結論は
「ここで必死に働いて店長までやろう」ということだった。
そのためにはまず店舗運営を勉強しなければならない。
また、四十人いる従業員のリーダーとして
マネジメントの勉強も必要になる。
そこで私はチェーンストア理論とマネジメント、
この二つだけを徹底的に勉強しようと、専門書を読み漁った。
いくら読書をしても、実践する場面がなければ
生かしようがないが、現場にいながら読書をし、
理論の要諦を掴む。
それによって、通常の半分程度の時間で
経験値を得ることができるというのが私の実感である。
その結果、入社二年目で店長に就任し、
翌年、七店舗を統括するエリアマネージャーに
昇格することができた。