「ローマ法王に米を食べさせた公務員」
金曜日, 2月 15th, 2013高野 誠鮮(羽咋市役所ふるさと振興係) 『致知』2013年3月号 特集「生き方」より └─────────────────────────────────┘ 私は日本人の気質や人間の心理というものを考えて、 いつも戦略を立てるんですね。 日本人ほど近い存在を過小評価する民族はいないんです。 近くに素晴らしい宝の原石があっても 遠くにあるもののほうが素晴らしいと評価する。 また、人は自分以外の人が持っているもの、 身に着けているもの、食べているものを欲しがるんです。 で、その相手の影響力が強ければ強いほど メディアも取り上げるし、ブランド力が上がる。 要するに、誰がいつも食べていたら 消費者は勝手に神子原(みこはら)米を ブランドだと思ってくれるかを考えました。 まずはここは日本ですから、天皇皇后両陛下です。 うちは「神子原」で、「皇」に「子」と書いて 「皇子」と読むからゴロもいい。 もう一つは、「神子原」を英語に訳すと 「the highlands where the son of God dwells」となって、 「イエス・キリストが住まう高原」となるんです。 ならば、キリスト教で最大の影響力のある人は 誰かといえば、ローマ法王だと。 で、最後にアメリカは漢字で書けば「米国」ですから、 アメリカ大統領に食べてもらうと、この三本柱を立てました。 まずは天皇皇后両陛下です。 羽咋市のある石川県は旧加賀藩になるわけですが、 宮内庁には加賀前田家十八代目にあたる 前田利佑さんがいらっしゃることを掴んでいました。 早速市長と一緒に宮内庁を訪ね、 前田さんに天皇皇后両陛下に神子原のお米を 定期的に食べていただけないかと直談判したんです。 山の水だけでつくった安全でおいしいお米ですと。 すると、あっさり 「いいですね。料理長にお願いしましょう」とおっしゃる。 いきなりOKですよ。 市役所に電話して「成功したぞ」と電話しまくって、 ホテルでどんちゃん騒ぎしていました。 もう私の頭の中には真ん中に金色の菊のご紋と 「天皇皇后陛下御用達米 神子原米」という昇り旗と ポスターが完璧にでき上がっていたのですが、 部屋に戻ると伝言メッセージのランプが点滅している。 宮内庁からで「さっきの件はなかったことにしてくれ」と。 陛下が召し上がるのは「献穀田」からのお米だけと 決まっていて、そこに新たに加えることは難しいという理由でした。 まあ、一瞬はガクっときましたが、すぐに切り替えて、 次はバチカンのローマ法王様にお手紙を書いたんです。 「山の清水だけでつくったおいしいお米がありますが、 召し上がっていただく可能性は一%もないですか」と。 しかし一か月たっても音沙汰なし。二か月目も何もない。 ダメだ、ならば次に行こうと。 当時はブッシュ大統領の時代で、 テキサス州にあるパパブッシュの自宅住所は掴みました。 そこに届けてもらおうと、アメリカ大使館に頼みに行ったんですね。 ところがその交渉のさなかにローマ法王庁から連絡が入り、 「来なさい」と。 そこで今度は市長と町会長と三人で 四十五キロの米を担いで駆けつけました。 新米をお出しして、これを法王に 味わっていただきたいと申し上げると、大使は 「あなた方の神子原は五百人の小さな集落ですよね。 私どもバチカンは八百人足らずの世界一小さな国です。 小さな集落から小さな国への架け橋を、 私たちがさせていただきます」とおっしゃったんです。 で、このことを地元の北國新聞と カトリック新聞が取り上げたんです。 そうしたら二日後、聖イグナチオ教会のバザーの関係者と 名乗る品のいい奥様からオーダーのお電話があって、 ものすごい量の注文がありました。しかもこちらの言い値で。 ここから全国紙やテレビでも 「ローマ法王御用達米」として取り上げられ、 それまで一粒も売れていなかった神子原米は 一か月でなんと七百俵も売れたんです。 一方で、最も売れる時期に売らなかったことも ブランド米になるための一つの戦略でした。