師・棟方志功の教え
月曜日, 3月 11th, 2013~化け物を観ろ、化け物を出せ~ 秋山 巌(版画家) 『致知』2013年4月号 連載「生涯現役」より └─────────────────────────────────┘ 【記者:棟方志功さんからはどんなことを教わりましたか?】 版画に対する姿勢ですな。 棟方の名を慕って門下に入った者は百人以上いますが、 版画そのものを習ったのは一人もいませんよ。 先生、どんなことに気をつければいいですかと尋ねたら 「人を感動させろ。 人を感動させるためには おまえ自身が感動しなきゃいかん。 そのためには本を読め」 と。先生はどんな本を読んでいるのかと聞いてみると、 人からもらった本ばかりでした。 柳宗悦や金田一京助といった人たちが年中やってきて、 これを読め、あれを読めと難しい仏教書なんかを しょっちゅう置いていくというんです。 そうやって棟方はよく本を読むし、 人の描いたものも実によく見ている。 「写真を見ろ、写真を。写真展を見て歩け」 とも言われましたね。 優れた写真は的確に物の焦点を捉えている。 その写真家の撮る構図を取り入れていけば、 絵もうまく描けるようになる。 要するに自分の描こうとするものを見る目が、 彼らと同じレベルにならなきゃダメだということなんです。 そのおかげで、なんとなくではありましたが、 あぁ、この場合はここを焦点にすればいいんだな、 あんまり余計なものを詰め込み過ぎてもダメなんだな、 といったことを覚えていきました。 実はこれは俳句の世界にも通じることで、 種田山頭火の自由律俳句も字が余るものもあれば、 逆に短いものもある。 大事なのは作品の体裁ではなく、 物事をどういう角度から見るかということですね。 それから棟方は、人を見れば 「化け物を観ろ。化け物を出せ」 と言いました。 要するに奇想天外なことをやれということでしょう。 棟方の絵は確かに化け物的なものが多いのですが、 その化け物をどうすれば版画に生かせるのか、 私は年中旅に出て石仏や道祖神を 写生してばかりの日々でした。