「失敗から学んだ仕事の尊さ」
水曜日, 6月 12th, 2013田中 健一(東レインターナショナル元社長) 『致知』2013年7月号 連載第32回「二十代をどう生きるか」より └─────────────────────────────────┘ 新人の頃、伝票処理を行っていた時期がある。 営業の一線に配属された同期の仲間たちが、 華やかな商談話を自慢げに披露し合うのを 恨めしく思ったものだ。 そんなある時、私の伝票処理が遅れたために、 ある取引先への支払いが翌月回しに なってしまったことがある。 すると、普段滅多にお目にかかれない 先方の重役が血相を変えて飛んできた。 上司は私の代わりに平謝りし、 特別な措置を取って支払いを済ませてくれた。 私の怠慢から生じたミスであったにもかかわらず、 その上司からは一言もお叱りが なかったことが逆にひどく堪えた。 その失敗で私は、自分の仕事の重要性を初めて実感した。 その会社がこの支払いにどれだけ依存しており、 自分の仕事がそこにどれほどの影響を及ぼすのかということが、 これ以上ないくらいの形で理解できたのである。 以来、それまでただの紙切れにしか見えなかった伝票が、 まったく違って見えるようになった。 見方を変えれば、会社を取り巻く あらゆる動向を教えてくれる 情報の宝庫であることに気づいたのだ。 私は、二度と同じ失敗を繰り返さないよう 仕事のやり方を工夫するとともに、 伝票処理を通じて様々な問題を発見し、 提案を重ねていった。 あの失敗がなければ、仕事の本当の面白さや、 やりがいというものに気づくことはできなかっただろう。 私は後の東レインターナショナル社長時代、 社の管理システムを世界標準と なりつつあったSAP社のシステムに 全面移行する決断を下した。 その際、SAPのトップと直接打ち合わせを行い、 導入を成功に導くことができたのも、 新人時代にいきなり営業の一線に立つことなく、 最初はつまらないと思っていた伝票処理を通じて、 事業に伴う仕事の流れをつぶさに学んだからに他ならない。 もう一つ、私に目覚めるきっかけを与えてくださったのが、 二十代後半に仕えた十歳年上の課長であった。
Posted by mahoroba,
in 人生論
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