「クリエイターに必要な三要素」
火曜日, 7月 2nd, 2013早乙女 哲哉(天ぷら「みかわ是山居」主人) 『致知』2013年7月号 特集「歩歩是道場」より └─────────────────────────────────┘ (修業に入った老舗天ぷら屋で)始終考えていたのは 「天ぷらとは一体何か」ということ。 自分のしていることを具体的に言葉で説明できなければ、 きょうは調子がよかった、悪かったという話で終わってしまい、 コンスタントな仕事ができない。 そこで先述したように、自分の行動に 「いまがベストか」と必ず問答を掛けるようにし、 少なくとも天ぷらに関しては、 どんな質問を投げかけられても 全部答えられるようになろうと誓いました。 例えば天ぷらを「揚げる」とはどういう状態を言うのか。 私の出した結論は「蒸す」と「焼く」とを 同時進行で行う、ということです。 油自体は火がつく寸前の三百六十度近くまで あげることができますが、 天ぷらの衣や魚には水分があるため、 揚げている素材は百度を超えることがありません。 揚げるというよりは、百度で「蒸して」いる状態です。 しかしそのまま油に入れておくと、 徐々に水分が抜けていき、 完全に水が抜け切ったところは、 百度から一気に二百度近い温度へと飛ぶ。 すると百度で「蒸す」のと、 二百度で「焼く」調理とが同時進行で始まるのです。 その原理を認識していれば、魚のクセを取ったり、 衣をいかにつければよいかといったことが 自分自身で把握できるようになります。 理論はよく分からないが、 油の中に入れていれば勝手に揚がるなどと思っていると、 自分から何かを仕掛けていくことなど不可能で、 経験が蓄積されていきません。 詰まるところ、魚も、野菜も、 元は皆生きるために海の中にいたり、 野にあったりしたもの。 それを、料理人は食べるために 置き換える作業をしなければならない。 いま、どこの料理の世界でも、 奇をてらったようなものが大流行りですが、 果たしてそれは本当においしいと言えるのか。 お客さんに面白い料理だと喜ばれればそれでいいのか。 真のクリエイターとは、 科学者であり、数学者でもあり、 なおかつ優れた感性がなければいけない というのが私の考えです。 従ってお客さんから「おいしいですね」と言われたら、 「えぇ、そうやって揚げてます」と答えられる。 天ぷらがおいしく揚がるよう、 結果が必ずそうなるよう、 一挙手一投足、計算し尽くした中でものづくりをしている、と。 それは即ち次に来ても、 そうやって揚げられますよということであり、 この次も気を抜かずやらなければいけない、 という自分自身への戒めでもあります。
Posted by mahoroba,
in 人生論
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