20 歳代から今に至るまで、聞き続けているレコードに、
タチアナ・ニコラーエワ女史が演奏するバッハの『フーガの技法』がある。
どんな名盤でも、いつの間にか聞かなくなるものが多く、ほとんどが忘れ去られてしまう。
しかし、この一枚だけは、何度聞いても、魂がときめいてしまうのだ。
朝に、これをかけてから私の一日が始まる。
そんな中、この『フーガの技法』をピアノで弾いているもう一人の女史が現れた。
その名も、朱晓玫。中国人である。
私の一歳上のお姉さんにあたる歳で、あの文化大革命をかいくぐって来た猛者でもある。
今では、フランスに定住して音楽活動を続けている。
バッハの縁の教会で弾いた『ゴールドベルク変奏曲』は見事なもので、
当地の人々に絶賛されている様子がわかる。
すごい新人が中国大陸から現れたものである。
(「フーガの技法」)
朱晓玫 シュ・シャオメイ
(ピアノ)
ZHU Xiao-Mei
中国の上海に生まれる。幼少の頃より母からピアノの手ほどきを受け、弱冠8歳で北京のラジオおよびテレビで演奏を披露した。10歳で北京音楽院に入学するも在学中に文化革命が起こり、勉学を中断。5年の間、内モンゴルの労働キャンプでの生活を強いられたが、ひそかにピアノの練習を続けた。 その後中国へ戻り、北京音楽院を卒業。1980年にアメリカに渡り、さらにパリ移住した1984年にこの地への定住を決意する。 以降、シュ・シャオメイは、もはや若手ではなくメディアからの支援にも恵まれなかったものの、その演奏家としてのキャリアを瞬く間に花開かせた。これまで、フランスはもとより、ヨーロッパ、北アフリカ、ロシア、南アメリカ、アジア、オーストラリアなど世界各地を旅し、長年あたためてきたJ.S.バッハの『ゴルトベルク変奏曲』などの難曲を演奏し絶賛されている。1990年に録音した『ゴルトベルク変奏曲』は仏「ディアパゾン」誌で5つ星に輝き、名盤として愛聴されている。 2007年10月にフランスのロベール・ラフォン社より、自叙伝『La Rivière et son secret』(ある河とその秘密)を出版。この本は2008年に、フランス語で著された最も優秀な音楽書籍に贈られる「グラン・プリ・デ・ミューズ」(Grand Prix des Muses)を受賞した。 現在は演奏活動のかたわら、パリ国立高等音楽院で後進の指導にも励んでいる
(『ゴールドベルク変奏曲』)