やっと、春の訪れを予感させてくれる今日この頃です。スタッフの懸命の働きで、どうやら、雪によるハウスの倒壊だけは免れました。 今年は67年ぶりの大雪で、山裾の農園は影響が大きく、ハウスの果菜類や青菜類の種まきが、例年より10日ほど遅れてスタートしています。 露地の方も、なにしろ積もった雪の量がいつもの2.5倍以上でハンパじゃないので、何時になったら融けることやら・・・です。 例年、早い年は4月10日頃、遅くても20日頃には融けてくれますが、今年は予測が付きません。遅れた分だけ、雪が融ければ一気に忙しくなり、場所作りから、種まき、定植、支柱立て、ネット張りなどなど、集中的に人手が必要になります。とても農園メンバーだけでは仕事が回りそうにありません。
3月の初めに、農業支援センターから、環境保全型農業に取り組んでいる農業者に対して、『戸別所得保障制度』についての説明会があるというので、はるばる大雪の中、岩見沢まで行って来ました。 まほろば農園は余り恩恵に預かることが少ないのですが、国の農業政策を知っておく事は大切と思い参加してきました。 「輪作の為に、これまで○○と言う緑肥を植えて来たけれど、○○では補償金をもらえないので、補償金をもらえる△△と言う緑肥を植えたら、作物の出来が良くなかった。今年はどうしようか迷っている」 との発表がありました。
私はこの質問に愕然とする思いでした。 本来、『戸別所得保障制度』は、日本の農業を保護する為に設けられた制度、と純粋に受け取れば(TPP批判を抑制する為の先手政策と見る向きもあります)、補償金をもらう為の『補償金農業』に成り下がってはいけないわけです。 作物は、その作物に相応しい環境条件と、栽培方法で健全に育てられるべきで、そこを歪めてしまっては、保護政策が、農業破壊に繋がってしまいます。 農水省が定めた基準から外れていたとしても、作物がすくすくと健康に育つ為の栽培法が実践されているならば、農家が基準に合わせるのではなく、基準の見直しが必要ではないかと思います。 しかしながら、農業に厳しい社会情勢の中で、食べていけない農家が増える中、『戸別所得保障制度』が一人歩きして、『補償金農業』に成り下がっていく可能性は十分にあるといえるでしょう。 補償金農業は、農家を堕落させ、国民の命を支えているという意識と誇りを希薄にさせる危険性があります。農家を責めることは出来ません。
まほろばのりんご農家の斉藤さんは、りんごの木の下にクローバーを植えて叢生(草生・そうせい)栽培をしています。直射日光を防ぎ、土の保湿性を保ち、土の中の微生物が十分に働ける為です。大雨の時に土や肥料の急激な流亡を防ぐ為もあります。 しかし、送られてきた申請書類の多さと複雑さに圧倒されて、終に斉藤さんは補償金の申請を断念してしまったとの事でした。
また、全国農業連絡会議が取り組んでいる『農の雇用事業』という若者の新規就農を後押しする補助金制度がありますが、これは、農家や農業生産法人が研修生を受け入れやすくする為に、研修生本人に対してではなく、受け入れ側に補助金が出ることになっています。ところが、この制度もまた悪用されていることが分かりました。 まほろば農園でアルバイトしてくれていた男女二人は、まほろばに来る前に、ある農業生産法人に研修生として入っていたそうです。出来たばかりの会社で、同時に採用された大勢の研修生仲間が居たそうです。 ところが、農業生産法人としての実体がなく(法的にはあるのだと思いますが)、仕事もほとんどなくて、お給料も出ず、辞めてしまったそうです。
また、まほろばでアルバイトだった女の子は、香川県の農業生産法人でアルバイトして働いていた時、東南アジア方面の研修生が多く、労働条件が非常に悪かったそうです。 お給料から、食事代と宿泊費用など引かれると、お小遣いも残らないので、帰国する為の旅費も貯金出来ないし、パスポートは帰国出来ないように会社に預けなければいけないので、帰りたくても帰れないのだそうです。
補助金制度と言うのは、私の身近だけでもこんなに多くの不正の温床になっているわけですから、何か本来の主旨から外れているように思います。 確かにどんな制度も良い面ばかりではなく、必ずデメリットはつき物だと思いますが…。
国は、本当に農業が大切と考えるのであれば、農業者が、国民の大切な食料を生産するという誇りと生きがいを持って働けるような環境づくりを、国家的事業として展開すべきではないかと思うのです。国家的規模でしか出来ない農業の根本的なバックアップ体制を今こそ強化すべきではないでしょうか? TPPの為に、国はさらに補助金の上乗せを予告して、反対勢力を沈静化しようとしています。でも、毎年毎年、エンドレスに支払われる補助金はどれだけ莫大なものになるのでしょうか?
私たちが、土地、建物を持っていることを前提にすれば、生産にかかる費用は、肥料、農薬、農業資材、機械類、種代、燃料費、車両費、人件費です。 この内、農薬代、種代は無農薬や自家採種の方向をめざせば良いし、燃料費は、緑肥に菜種を植えて、バイオ燃料にすれば、かなり解決出来ると思います。 後は、機械類、肥料代、車両費、農業資材です。 これらを購入する際に、国が大幅に補助金を出してくれれば、生産コストが押さえられ、国際的な競争力も強くなると思います。 現行では、大型機械だけしか補助金が下りないので(500万円以上の機械は2分の1の補助金がおります)零細農家は利用できません。 これからも、政府は、大規模農家だけを保護して、国際競争力の強い日本農業を育てようとしています。大・小・零細も一律に保護すると、国家財政が破綻しかねないからです。 本当にそうなのでしょうか?
しかし、『農の雇用事業』や、『戸別所得保障制度』にかけるお金を止めて、機械類、肥料代、車両費、農業資材の割引制度金に回せば、人件費も成功も失敗も、本人の努力と才覚次第です。 同じ金額でも、現金支給より現物支給の方が、政府の負担は少なく、農家の恩恵は大きくなります。 また、両制度にかける手続きや審査、管理の煩わしさはハンパではなく、農家の負担は当然ながら、その為だけに、どれほど多くの公務員の人件費を使っているか計り知れないものがあります。
大・中・小・零細にかかわらず、一律に、機械類、肥料代、車両費、農業資材がすべて7割引きくらいになれば、農家は生きがいを持って働けるようになるし、若者も農業に定着し、新規就農も可能になると思います。
認定農業者のカード1枚あれば、面倒な書類がなくても、あらかじめ政府によって登録された物品は、全国何処でも自動的に割り引かれてお買い物できるようなカードシステムが構築できれば、双方、お買い物管理が同時に出来ることになります。
また、生産コストが安くなれば、消費者も国産野菜を安く買えるようになり、自給率も国際競争力も高まるのではないでしょうか? 物事の解決は、源から取り組めば、先々の問題は自ずから解決して行くのではないでしょうか? 『農の雇用事業』や、『戸別所得保障制度』は、後から農業政策の不備を補完していくやり方なので、経費ばかりかかって、農業問題の根本的な解決には何時までたっても届かないように思います。
また、今では、認定農業者は、公的機関から無利子で、据え置き期間が長く、多額の借金が出来ますが、返済が始まると倒産する人たちも多いと聞きます。 多額の借金をしなければ始められない農業ではなく、多少の支度金があれば始められる農業、借金倒れしない農業が、貸し付けるのではなく、割り引くことによって可能になります。 どうせ農家に貸し付けたお金が戻らなくて、全国各地で競売が起きて、貸し付けたお金の何割も戻らないのです。長期間据え置きで貸し付ける多額の遊ばせるお金があれば、初めから割り引いてくれた方が、農業はバクチではなく、健全な聖職になることが出来ます。
政府が、農業者を規模別に篩い分けるのではなく、農業者が、本人の努力と能力によって、自ら篩い分けて行くのでなければ、農業は魅力のないものになってしまいます。 政府が農業立国日本を本気で目指すのであれば、農業の保護政策は、派手なお金のバラまきではなく、TPPなど関係のない、誰にも平等で、やる気と努力と能力によって発展していける抜本的なバックアップシステムを構築していくべきだと考えます。
この考え方は、政府を初めとして、各方面に提言して行きたいと考えています。 同じお金を使うのでも、源にお金をかけるか、結果にお金をかけるかでは、大いに違ってくると思います。源にかけるお金は、生きて機能するお金です。 自家採種の地域的共同システムや、生ゴミや下肥の肥料化システムのことについては、以前に書いたので、ここでは触れませんでした。(長くなるので)
今回は、何か難しいことばかり書いて申し訳ありません。順調に行けば4月の20日くらいから青菜類が出荷できると思います。 今はまだ可愛い小松菜の姿を見てやって下さい。
2013年4月号
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