ここで、フィチン酸について少し詳しく述べてみます。フィチン酸は別名‘イノシトール6燐酸とも言われ、植物類のほとんどに含まれる天然成分です。堅果類(ナッツ類)や、未精製の穀類、豆類に多く含まれていますが、玄米に含まれるものが特に有名です。
■強力な抗酸化作用でガンを抑制
フィチン酸は金属イオンを取り囲み、強力な抗酸化作用の働きで、活性酸素の発生を抑制し、結果としてガンを予防、抑制すると研究されています。
■ミネラルの吸収阻害と体内のミネラルの排泄
一方で、フィチン酸は、食品中の鉄分やカルシウム、銅、亜鉛などの必須ミネラル成分やタンパク質と強く結びついて(キレート作用)、その吸収を阻害することも判明しています。
その上、体内に蓄えたミネラルまで吸着して排泄してしまうため、ミネラル欠乏症になってしまうのです。
■濃厚飼料は環境汚染
現在、ブタ、ニワトリなどの家畜は、主にダイズ、トウモロコシなどの穀物で肥育されていますが、これらに含まれるフィチン酸は動物に吸収さないで腸管を通過するため、自然界のリン濃度を上昇させ、富栄養化などの環境問題につながる恐れがあります(ウシなどの反芻動物は少量のフィチン酸なら消化できる)
■加工食品に多量に使われているフィチン酸
一方、フィチン酸はそのキレート作用を買われ、缶詰、発酵食品、油脂などの食品に広く用いられています、たとえば、マグロ缶のストラバイト防止(?)、カニ缶のブルーミート防止、アサリ水煮缶の黒変防止、発酵食品の発酵時間の短縮、風味増強、練り製品や麺類の保存料、油脂の酸化防止剤、肉、魚介類を中心とした食品の旨味向上などです。
また、金属用塗料、メッキにおける洗浄剤、金属表面防蝕、防さび剤、平版印刷など、工業用としても幅広く利用されています。
その他、体臭、口臭、尿臭などの消臭、防臭にも使われています。
■現代人のミネラル欠乏症に関係がある可能性も
しかし、現代では、フィチン酸は、食品中のミネラルやタンパク質と強く結びついて、これらの消化吸収を大きく妨げるので、現代人のミネラル欠乏症の一因になっているのではないかと考えられています。
■糖尿病急増の原因になっている可能性も
クロムは糖代謝に欠かせないミネラルですが、糖尿病は、この40年間で患者数230倍も急増し、社会問題化しています。
この異常事態の背景には、フィチン酸の大量使用が原因ではないかという指摘もあります。フィチン酸によって食品からクロムやたんぱく質をはじめとする栄養素が、大幅に減少し、栄養失調によるものではないかとの見方もあるからです。
■フィチン酸の働きを弱める日本の知恵―発酵―
また、フィチン酸は酵母や酵素の働きでミネラルやたんぱく質を離し、吸収されやすくなることが分かっています。味噌、しょうゆ、納豆のような発酵食品は、ただ単に貯蔵のためだけでなく、フィチン酸の働きを抑え、栄養の吸収をよくするためもあったのです。発芽玄米(発芽の段階で酵素が大量にでます)もフィチン酸を抑制してくれます。
また、フィチン酸はヌカの部分に多いので、精米技術が発達し、取り除いて食べるようになりましたが、同時にフィチン酸に結合したミネラルや、胚芽の部分に含まれるビタミンも取り除くことになり、脚気をはじめとするビタミン欠乏症にも悩まされるようになりました。穀物主体の食生活をする現代人は、砂糖の消費量の増大ともあいまって慢性的な脚気症候群でもあります。
|