この地を授けて頂いた因縁を思う時、「ここより世界に通じる道が出来る」といわれた孔氏の遺言の凄みを今更ながら感じたのだ。
そして、各自の大切な持ち物にマントラを入れて頂いた。
延々と続く讀経は経を見ずに諳んじて、我が物として魂の内側から発せられていた。
最後にこの功行のお礼に、「チベットの分断された皆々様が、再びと帰して懐かしの故国に戻れますように、皆でお祈りさせて頂きます。」と告げて、私たちは一心に黙祷した。
それしか、お返しする術がなかった。
故郷の風よ、
再びとあなたの髪になびいて。
故郷の山々よ、
再びとあなたの眼に映りて。
故郷の草原よ、
再びとあなたの子を抱いてください。
力によって、家族を離してはいけない。
国によって、国を裁いてはならない。
祖国の川は、生まれし民に。
祖国の空は、蒼き空のままで。
静かに終わりを告げる声明は、悲しみの階調を伴って、
あのチベットの山々に帰って行った。
そして、音もなく虚空の彼方に消えた。
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